学力格差は「絆」の格差

 子供の学力格差は、経済格差がそのまま反映しているという話が定説のように言われているが、前からどうも違うのではないかと感じていた。だが少し前に、学力格差は経済格差というよりも、子供と地域・家族・学校との「絆」の差であるとする研究結果が発表された(日本経済新聞平成21年11月30日付)。

 この研究は大阪大学の志水宏吉教授によるもの。記事を要約すると、志水教授の研究室では、1964年と2007年の全国学力テストの比較分析を行った。その結果、六四年当時は低い成績だったが今では中以上の成績を収めている県がある一方、逆に当時は成績が全国で上位にあった県が今では下位に低迷している傾向があることが分かった。前者の典型例が秋田で、後者の典型例が大阪だという。

 次に志水教授は、その原因を探るために、消費支出額、学校教育費割合など35の指標と成績との関連を統計的に分析。64年当時は、子供の教育・習い事や家族での団欒・余暇に多くのお金をかけることが可能な地域の子供の学力が総体的に高かったが、07年の分析では、経済的指標の影響力は一定程度存続しているものの、それとは異なる指標が大きく影響していることが浮かび上がってきた。志水教授は言う。

 「それらの指標を代表するものが、『持ち家率』『離婚率』『不登校率』という3つである。持ち家率が高いほど、逆に離婚率および不登校率が低いほど、その都道府県の子供たちの学力は高くなるという結果が出てきたのだ。
 持ち家率が高いということは、数世代にわたってその地域に住み近隣の人々とのつきあいが密である、あるいは祖父母と同居し近隣に親せきがいる確率も高いということである。これは『地域とのつながり』の豊かさを指す。
 次に、離婚率が高いということは、少なくとも子供たちにとっては家庭生活の不安定さや家族関係の揺らぎを意味することが多いだろう。すなわち、『家庭とのつながり』の問題である。
 そして、いろいろな事情・要因がからんでくるだろうが、不登校率が高いということは、やはり当該地域における子供たちと『学校とのつながり』の弱体化ないしは希薄化を予想することができる」

 志水教授は、この3つを総合して「つながり格差」と呼んでいるが、結局、学力以前に、家庭・地域・学校という「基盤」が子供にとっていかに大切なのかということが分かる。

 

◆「仕事が忙しい」が子供をダメにする

 この記事を読んで、近年教育現場で奨励されている「早寝・早起き・朝ごはん」のことが思い浮かんだ。

 「早寝・早起き・朝ごはん」が奨励されたのも、子供達が勉強以前に、夜更かしして朝起きられないとか、朝ごはんをきちんと食べてこないといった生活習慣の問題があった。

 わざわざ学校がこんな基本的な生活習慣の問題にまで取り組まなければならなかったのは、親自身が朝起きられず、子供に朝食を食べさせてやれないほどだらしないからだ。つまり、学力低下の背景には家庭での「躾の不在」があるわけで、本来はこちらの方にもっと注目しなければならないはずである。

 幸い「早寝・早起き・朝ごはん」は、いまや文部科学省自身が取り組むまでになっている。しかし一方では、まだまだ分かっていない親が沢山いるらしい。

 日本経済新聞(平成21年11月9日付)にこんな記事が出ている。

   「深夜まで開いている商業施設も広がり、夜に小さな子どもを連れている親の姿も目に付く。P&Gパンパース赤ちゃん研究所が04年、4歳までの子どもを持つ母親521人に行った調査によると、4人に1人の母親が夜9時以降に子どもを商業施設に連れ出したことがあると答えた」

 「一方で仕事で忙しい親など子どもの生活リズム維持に苦心する姿もある。
東京都のB子さん(25)は保育園に長女(3)と長男(2)を預けて働いている。午前8時に子どもを園に送り、迎えが午後10時になることもしばしば。就寝は長男が11時、長女は深夜0時ごろになり、朝7時に起こすのは一苦労だ。『本当は9時に寝かせなければ』とは思うが、仕事もおろそかにできないと揺れる」

 子供のことを考えればどうすればいいか分かっているにも拘らず心が揺れるのは、社会に浸透する「経済格差」説や、左翼学者が必要以上に「女性の社会進出」を煽る「働けイデオロギー」の影響ではないかと勘繰りたくなる。

 睡眠の研究をする東京ベイ・浦安市川医療センターの神山潤センター長は「幼少期の寝不足は子どもの数十年後にも影響する」と語っている(前出・日経)。子供の健全な成長を願うならば、家庭の役割を軽視してはならない。(『明日への選択』掲載「知っておいてためになる話」より)

〈初出・『明日への選択』平成22年1月号〉