国境の離島に伸びる外資の手
国境の離島が外国に狙われている代表的な例として、対馬がよく引き合いに出されるが、危ないのは対馬だけではない。すでに「対中最前線」の南西諸島にも手が着けられている?
林野庁は去る五月十一日、外国資本による森林買収の全国調査結果を発表した。これは昨年十二月に発表したものの続編で、国土交通省と連携し、都道府県を通じての調査である。
それによると、平成十八年〜二十二年、北海道で三十六件、米沢市、箱根町、軽井沢町、神戸市で各々一件ずつ、計四十件、六百二十ヘクタールが確認された。確かに、国土の六七%を占める森林面積約二千五百万ヘクタール比べればごくわずかだが、この数字は必ずしも実態を示すものとは言えない。
わが国では土地の売買は、農地法による規制がある農地以外は原則自由であり、国籍による規制もない。そのため、土地の取得主体が外資か否かの確認は事実上きわめて困難だからである。
事実、東京財団が今年一月にまとめた政策提言「グローバル化時代にふさわしい土地制度の改革を―日本の水源林の危機掘廖憤焚次提言と略)によると、外資などによる日本の土地・森林の取得は国境の離島にも伸びつつある。長崎県の対馬で、韓国資本によって自衛隊基地の隣接地までが買収されていることは広く知られるようになったが、こうした問題は対馬だけの話ではないのである。
そうした実状を提言に基づき紹介したい(引用箇所の算用数字は漢字に修正)。
◆五島列島を狙う上海資本
まずは、大小百四十余りの島々が連なる五島列島(長崎県)の玄関口とされる五島市の福江島をめぐる動きから取り上げよう。長崎の海上約百キロメートルにあり、長崎空港から三十分で到着するのが東シナ海に浮かぶ福江島だ。
福江島は上海から日本への最短地点にある。森林資源などに興味をもった上海資本が二〇〇八年以降、同島に何度か訪れた実態を提言はこう記す。
「二〇一〇年に入ってからも中国本土から島の山林や港、水産業、観光資源の視察に訪れ、すり身等の製品加工のほか、富裕層向けの別荘地開発、介護教育の研修地として島を活用することに関心を寄せた。
また外来種(ニュージーランドマツ)の植林を提案するなど、五島市長らとの面会を済ませ、二五〇〇ヘクタールに及ぶ財産区の森林伐採権について、地権者との交渉も行った。単なる木材買収にとどまらず、林業経営への投資を地権者らに提示した点が新しい。一回限りの立木伐採ではなく、数十年を経た次の伐採も視野に入れている」
どうやら上海資本の関心は、森林資源だけではなく、島自体にあると言えそうだ。当然ながら提言も、「別荘地や介護施設開発などには事業用地の不動産取得もセットになる」と注意を喚起している。
ちなみに、上海資本が島の地権者らに提示した買収条件は、五十年生ヒノキが十五万円(一ヘクタール当たり)。「驚くほど安価な提示にもかかわらず、島の地権者たちは、『とうてい売れない資産を買ってもらい、当座の収入にしたい』という誘惑と、一方で『平穏な暮らしが脅かされるのではないか』という不安のはざまで揺れた」――提言はこう述ている。
それにしても、不便な島嶼部に上海資本が興味を持つのはなぜか。提言は、仲介した日本人のこんな発言を紹介している。
「富裕層は子孫に財を残すため、投資先を国外に求めている。本国には土地利用権しかなく、投資先が限られているから。その点、日本の永久所有権は魅力。土地さえあれば、富は拡散しなくて済み、世代をつなげていける。分散投資先として日本は最も近く、安全な国。しかも不動産を取得するのに外国人制限が何もない。島への投資もその一環です」
とはいえ、共産主義の中国では、民間が購入した日本の土地をいつ国家が召し上げないとも限らない。提言は触れてはいないが、これは見落とせない重大問題だと言える。
だが、上海資本が狙っているのは福江島だけではない。提言はこう記している。
「福江島に置かれた上海資本の日本法人事務所は、島外の森林伐採権の獲得も目指しており、福江島の北東にある中通島では複数の地権者との間で複数の立木売買契約を成立させた。全八ヘクタールの山林のうちの一部はすでに伐採完了している。丸太の一部は九州本土で燻蒸し大陸へサンプルとして運搬された」
中通島は五島列島では福江島に次ぐ二番目に大きな島だ。狙われているのは、五島列島全体なのかもしれない。
◆南西諸島にも手が着けられている
さらに深刻な問題は、南西諸島に属する奄美大島をめぐる動きである。提言はこんな動きを伝えている。
「鹿児島に本社がある海運会社グループは二〇〇八年、東シナ海に開けた奄美大島瀬戸内町にチップ工場を建設しようとし、森林伐採とチップ生産で地元雇用を増やす計画を表明した。だが、地元の反対を受けて断念し、次に計画したのが、隣の島の加計呂麻島。一万ヘクタールの山を伐採し、『働く場所を作って町の財政にも寄与したい。島の森がもつ自然再生力を活かしたい』という提案だったが、ここでも反対運動が盛り上がった。
その後、会社側は加計呂麻島から一時撤退し、すぐさま第三番目の候補地を表明した。それが再び奄美大島に戻って見つけた奄美市(住用地区)の土地で、マングローブ原生林の河口に当たる場所にチップ工場を建設し、加計呂麻島と奄美大島の森林全般を伐採対象とする計画を示した。工場予定地として民地は買い上げられ、山林買収も進められており、すでに一億六千万円の投資を行ったと同社は説明する」
この「海運会社」がいかに奄美に執着しているかが分かる。その「意図」について提言は、「林業的にいうと、木材はチップのように切り刻むと価値は下がる。……本土の木材産業でさえ四苦八苦している現在、敢えて離島で新規投資までしてチップ生産を開始するというのは、かなり大胆な投資」と疑念を隠さない。
ちなみに、この海運会社は外資ではないが、「大連や上海、台北など国内のみならず国際航路を行き来する国際的企業」とされる。とすれば、外資が背後で糸を引いている可能性は十分あり得るし、むろん、外資に土地が転売される可能性も否定できない。
周知のように、尖閣諸島も含む南西諸島はわが国の安全保障上きわめて重要な地域である。東シナ海の軍事バランスが中国優位に傾く今日、南西諸島の防衛強化はわが国防衛の緊急課題であり、現に自衛隊の増強も構想されている。仮にその一角が中国資本の手に落ちることになれば、わが国の安全にとってきわめて由々しき事態を招く恐れがある。
とすれば、これがいかに物騒な動きかが分かるだろう。だが、問題はそれに止まらない。提言は「こうした国境離島の売買が、実は各地ではじまっている」として、次のような動きも伝えている。
「対馬では三年前、五五〇〇坪の土地が韓国資本の手に渡ったと話題になったが、一年ほど前からは中国資本も参入したという。上海企業が対馬方面の山林買収などに興味を示しており、競売などでの価格競争は仲介人を交え、多国籍化しているとされる」「隠岐島などでも具体的な動きが表出している。島外から土地の買い付けに来たり、リゾート用地以外の名目で山林を探す動きもはじまっている」と。
◆切り売りされる無人島
一方、こうした国境の離島の動きとともに無視できないのは、わが国の無人島が財政再建の「切り札」として売買されていることだ。昨年二月、瀬戸内海の無人島が売りに出されたことを提言はこう記している。
「広島県呉市沖の三ツ子島(約七六〇〇平方メートル)の売り主は国。旧日本海軍病院施設の遺構もある島で、もちろん、入札に国籍は問わない。未利用地は売却していくという国の方針に沿って行われたものだったが、無人島の国による競売は史上初めてであった。……
八法人と十個人の計十八組が応札し、一億一万円を入れた地元の法人が落札した。隣の島で操業する港湾荷役会社で、輸入した工業塩の積み替えと保管を行っている」
要は、経済的に価値が低く、不要なものは売っていくという発想で国土の「切り売り」がなされているわけだが、提言はこう釘を差している。「国も自治体も、短期のソロバン勘定だけになっている。そこに『当面公有地として残しておく』という発想はない」と。
なお、尖閣事件直後の昨年十月、先の福江島に隣接する無人島の包丁島(民有地)が丸ごと売りに出されたという。何とも寒心に堪えない。
以上のような事実から改めて浮き彫りになるのは、領土や資源をめぐる熾烈な国際争奪戦のなかに、いわば丸裸で臨んでいるわが国の極楽トンボのような姿である。
国土・資源の保全や安全保障の観点から、土地の売買・利用を規制するための法律を早急に整備するとともに、林業の再生など、地域社会活性化のための対策が求められている。
〈初出・『明日への選択』平成23年7月号〉