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2012年5月11日(金曜日)

人権救済法案の国会提出 「見送り」は決定されていない

人権救済法案の国会提出

「見送り」は決定されていない

 

 問題の「人権救済法案」は通常国会への提出が見送られたとの報道がありますが、法案提出の見送りはまだ決定されてはいません。

 5月8日、閣議後の記者会見で小川敏夫法務大臣は次のように発言しています。

【記者】人権救済機関設置法案について,一部の報道では今国会での提出見送りとありましたが,現状はどうなっているのか,また,今国会に提出する意思はありますか。

【大臣】見送ったと決めた事実はございません。引き続き提出する努力はしているところでございます。ただ,時期も含めて具体的に提出するということが決まっているわけではございません。

 通常国会の会期は6月21日までですが、延長は必至。まだまだ国会提出の危険性は十分にあります。油断はできません。(日本政策研究センター メール・ネットワーク5月9日付)


◇◆当センターのWEBサイトから「人権救済法案」反対のチラシがダウンロードできます。
http://www.seisaku-center.net/images/jinken-chirashi20120401.pdf

◇◆当センターが発刊しているブックレット『こんなに危ない人権委員会―「自由」を脅かし、家族を壊す「人権救済法案」を許すな』(A5判32頁、300円)が好評です。当センターにお申し込みください(TEL03−5211−5231)。

◇◆石原知事の尖閣三島「購入」発言についての当センターの見解をウエブサイトにアップしております。
http://www.seisaku-center.net/modules/wordpress/index.php?p=815

 東京都が行っている尖閣購入の寄附については、パソコンから次のページで詳細がご覧になれます。
http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/senkaku.htm

連絡先は、知事本局の尖閣諸島寄附担当 直通電話 03−5388−2206


2012年5月1日(火曜日)

尖閣「購入」発言を支持する

尖閣「購入」発言を支持する

 石原慎太郎都知事の尖閣諸島「購入」発言は衝撃的だった。四月十六日、訪問先のワシントンで講演した石原都知事は、尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島の三島の購入に向けて、土地所有者である埼玉県の実業家と交渉していることを明らかにした。最近、関心の薄れてきた尖閣問題だが、この石原発言で一気に国民的関心が高まった。インターネット上では石原発言に賛同する書き込みがあふれ、都庁には賛成意見の電話やファックスが殺到したという。

 

 一方、産経新聞を除く各紙は石原発言への疑問を呈し、朝日新聞などは「そもそもこれは東京都の仕事ではない」などと批判している。そうした反対論のなかで今盛んに主張されているのが、「都民の税金をつぎ込むな」という反対論である。

 しかし、尖閣諸島を買い取る資金を民間から東京都に寄附しようという動きも始まっている。当センターにも、寄附したいのだが、どうすればよいのか、という問い合わせが寄せられているくらいである。趣旨に賛同する心ある日本人は決して少なくない。東京都には寄附の受け入れ体制を早急に整えてもらいたい。

 また、沖縄県の土地を買うのは都政の目的から外れているという批判もある。しかし、地方自治体の活動がその自治体の範囲に限られているということもない。現に、大災害時には東京都の一部局である東京消防庁の緊急消防援助隊やハイパーレスキュー隊が、都民の税金を使って、東京都外に駆けつけ活躍している。

 今回の場合、地権者が民主党政権は信用できない、個人で所有しているより東京都に売りたいと言っているという。だとすれば、東京都や石原都知事でなければ出来ない事業であり、問題があるとは思えない。

 

 確かに、国境の島の地権者が個人のままというのでは、島の売買に特別な制限はないのだから、たとえ外国人に売ったとしても法律上の問題とならない。そうした現状は問題であり、やはり国境の島は国有とすべきだというのは正論である。

 しかし、今の尖閣問題の核心は、所有権の問題にあるのではない。中国は、「公船」による尖閣諸島の周辺海域への侵入を常態化させ、海保の巡視船に対し「この海域は中国の領海だ」とその都度主張している。中国国家海洋局の当局者は「人民日報」において、尖閣近海での海洋調査船の「定期」巡視活動は日本の実効支配の「打破」を目的にしたものだと明言している。

 一方、わが国政府は、尖閣諸島を地代を払って借り受けてはいるが、中国からの批判を恐れて、民間人はむろんのこと、国会議員に対しても、固定資産税調査のために上陸したいという石垣市長に対しても事実上の入域禁止措置をとり、避難港や無線設備の設置、環境調査など島の利用・活用には何も着手していない。つまり、実効支配を強化するための方策は何も実行していないのである。

 尖閣諸島の領有権は日本にあることは間違いない。それゆえ、政府は日中間に領土問題は存在しないと述べているのだが、日本が実効支配を強めないことに中国が付け込み、尖閣周辺海域で日本の実効支配を「打破」しよう、つまり中国の実効支配を確立しようとしているわけで、尖閣問題の核心はここにある。その意味で、仮に国有化しても、政府がいまのまま何もしないのであれば、この問題は解決できない。

 

 石原都知事は、中国が「日本の尖閣諸島の実効支配をぶっ壊すため、過激な運動をやりだした」と指摘し、日本の実効支配を守るためには「本当は国が買い上げたらいい」が、「外務省はビクビクしている」から「東京が尖閣諸島を守る」と発言している。また、尖閣周辺の漁業資源開発についても触れ、尖閣諸島の実効支配を強化しようとの意図が窺える。その意味で、石原発言は核心を突いたものと言えよう。

 石原発言は新党結成に絡むパフォーマンスだという人もいる。仮にそうだとしても、この発言は国民を尖閣諸島への実効支配の強化に目を向けさせたことは確かで、購入方針を最後まで貫徹してもらいたい。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成24年5月号〉


『明日への選択』5月号表紙と目次

カテゴリー:
『明日への選択』平成24年5月号表紙

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表紙写真=山本皓一(報道写真家)

尖閣諸島(右側の大きな島が北小島、左側が南小島。真っ青な空、白い雲を背景にカツオドリがゆうゆうと飛ぶ。2004年撮影)

 

『明日への選択』平成24年5月号目次

―interview―

☆「統合運用」で尖閣・沖縄を守れ!

 古澤忠彦(元海上自衛隊横須賀地方総監)
 ・中国の軍事増強に対抗するために、アメリカは「アジア太平洋重視」を打ち出した。マスコミはなにか「米中の覇権争い」のような話としてしか伝えていないが、中国が一旦事を起こせば、日本の米軍基地等が中国のミサイル攻撃を受け、日本が戦場になる。つまり、これは「米中の覇権争い」という他人事ではなく、日本自身が中国の軍事戦略にどう対抗して行けばいいのかという話なのだ。

☆「第三の危機」に直面する中国共産党政権

 石 平(拓殖大学客員教授)
 ・「指導部交代」間近の権力闘争と経済失速の背景を考える。

 

―opinion―

☆「橋下維新の会」をどう見るか
 ・「閉塞した日本に風穴を開けてくれる」と期待を寄せられる「橋下維新の会」。鳴り物入りの「維新八策」は「日本再生のためのグレートリセット」を掲げる。それ自体は結構なことだとしても、そもそもこの国の何を、どのような方向に向けて、何のためにリセットするのか、それこそが問われるべきではないのか。


☆高校教科書は一体どこの国の教科書なのか
 ・高校「日本史」では、日本による「加害」だけを一方的に強調する「日本断罪史観」が大手を振って横行している。


☆「孤立死」が突きつける日本の課題
 ・日本各地で発覚する「孤立死」。行政やマスコミは根本的な課題を棚上げしたまま、対症療法や公助ばかりを議論するが、見直されるべきは地域や家族がもつ機能ではないのか。


☆ウナギ高騰のどこが悪い
 ・ウナギから見える日本の「食」問題


☆「イチゴは基幹」と頑張る亘理町
 ・東北被災地視察レポート余録


☆「主権回復六十年」の意味を考える


☆尖閣「購入」発言を支持する

 

―column―

☆一刀論壇
 日本版台湾関係法の制定を急げ
 林 建良(台湾独立建国聯盟日本本部中央委員)

☆魚がみた日本近代(第17回)
 魚とデモクラシー
 ・もし明治の国民が「小村寿太郎の大金星」を知っていたら……
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第17回)
 弘前城
 濱口和久

☆世相クローズアップ
 ・「くれない族」は変身できるか

☆百題百話
 ・「もうしばらく古いものを残しておきたい」
 ・「これは本当に皇室という御存在があるおかげだなとおもいました」

☆地方議会政策情報
 ・外資の水源地買収 北海道、埼玉で条例制定、十五自治体が意見書
 ・千葉、群馬、岡山などで人権侵害救済法案に反対する意見書
 ・内灘町 まちづくり基本条例案を否決

 

―history―

☆子供たちに「郷土の偉人」を知らせよう
 ・江戸時代の国学者で、万葉集の研究や歌人としても知られる賀茂真淵の伝記をマンガ化した『賀茂真淵先生』が、真淵の出身地である浜松で作られ、小学校にも配布されて話題になっている。


☆歴史の指標 塙保己一(二)
 六万冊の書物を全て記憶
 岡田幹彦(日本政策研究センター主任研究員)




年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

お申し込みは、日本政策研究センター(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。


「主権回復六十年」の意味を考える

「主権回復六十年」の意味を考える

 この四月二十八日はサンフランシスコ講話条約発効から六十年の日であった。その意義と今日なお残されている課題を、本来なら前号に取り上げるべきテーマではあるが、ここで考えてみたい。

 一般に指摘されるように、講和条約発効のまず第一の意義は、これにより日本が主権を回復したことにある。七年に及ぶ占領統治が終わり、日本は主権国家として晴れて国際社会への復帰が認められた。第一条は連合国は(日本の)「完全な主権を承認する」と規定するが、それが果たして「完全」であったかはともかく、戦争状態には終止符が打たれたのである。

 ここで確認しておくべきは、この戦争状態の「終わらせ方」である。当初連合国が考えていた条約の内容は、独立後も日本軍国主義の復活防止を最大眼目とし、なお二十五年間にわたり、日本を「監視・監督」していくとする内容のものだった。つまり、講和目的をあくまでも日本の「非軍国主義化と民主化」におき、旧日本復活を封ずるべく、それを監視し続けんとする内容のものだったのだ。

 しかし、これが冷戦の進行とともに修正され、結果的にダレス米国代表のいう「和解と信頼の講和」というものになっていったのが、この講和条約だったといえる。同条約前文は「同盟国及び日本国は、両者の関係が……主権を有する対等のものとして友好的な連携の下に協力する国家の間の関係でなければならないことを決意し」と述べるが、まさにそれは日本に国際社会における「主権」と「威厳と平等の機会」(ダレスの言葉)を与えんとするものであったのだ。

 それゆえ重要なのは、この条約にはイタリアなどとの講和条約に見られる「軍国主義」だの「侵略戦争」だのという戦争認識を示す規定が一切ないことである。そうしたものを全て排除し、その上で何らの「禁止」だの「制限」だのというものすら設けなかったのがこの条約であったのだ。

 「日本は戦争裁判法廷の裁判を受諾し」とするこの条約第十一条をもって、日本は東京裁判の「判決内容」を受容せしめられた、とする見解が政治家やマスコミの中で今日なお語られる。しかし、それはかかる条約の本質を見ることができない度し難い無知と迷妄という他ない。あえて繰り返すが、日本は「和解と信頼の講和」を得たのであり、また「威厳と平等の機会」を得たのであって、そこになお東京裁判の論理などが入り込む余地は一切なかったのだ。

 とはいえ、しからば日本は全ての面で「完全な主権」を回復し得たのかといわれれば、また話は別である。まず指摘しなければならないのは、千島列島と南樺太のゆえなき「放棄」、あるいは琉球・小笠原の米国による「信託統治」を規定する領土条項等々、敗戦国の屈辱を知らされたのも事実だからだ。吉田首相はこの千島列島には所謂北方四島は含まれない、と講和会議で関係者に訴えたが、今日もこの島々ではソ連による「不法占拠」が続けられ、更に沖縄はその後二十年間にわたり米国施政権下の現実を余儀なくされ、今日もなお「基地の島・沖縄」の現実に直面せしめられている。このことを忘れ、単に主権回復メデタシで済ますわけにはいかない。

 と同時に、この講和独立とともに、この日本自身が本当に「独立日本の政治」を回復できたかも問われねばならない。主権回復が文字通りのものであったのなら、まさに占領政策の遺物たる憲法は破棄され、新たな憲法が作り直されるべきはずであった。むろん、それと同様の他の「占領遺制」もそうだ。しかし、その当然の課題が今なお果たされていないのだ。

 「主権回復」から六十年。しかしそれは実際には「途上」というのが現実だろう。この現実を踏まえた論議が必要ではないか。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成24年5月号〉


2012年4月28日(土曜日)

「少子化」の張本人が「少子化」担当大臣に

「少子化」の張本人が「少子化」担当大臣に

 「少子化対策」がまったなしの状態にある。総務省が先日発表した人口推計でも先日、日本の総人口は前年より25万9千人減少。なかでも、出生児数が過去最低の107万3千人となった結果、人口の自然減が18万人と、過去最大となった。

 むろん、総人口に占める年少人口(0〜14歳)の割合は13.1%で過去最低。一方、老年人口(65歳以上)も過去最高(23.3%)となった。

 ところが、4月23日に野田内閣は、中川防災担当相が2カ月余り兼任していた少子化担当相に、こともあろうに、小宮山洋子厚生労働相を兼務で任命した。民主党政権の少子化担当相は、政権交代以来、小宮山氏でなんと9人目。民主党政権に少子化問題への熱意など見られない。

 しかも、小宮山氏は、ジェンダー・フリーの旗振り役を務めてきたフェミニストで、「家族単位の政策」から「個人単位の政策」へなどと言ってきた人物。むしろ「少子化」の種をせっせと蒔いてきた張本人とも言える。こんな人物を少子化担当にして、一体、何をしようというのか。(日本政策研究センター メール・ネットワーク4月28日付)


◇◆石原知事の尖閣三島「購入」発言を受けて、東京都は早速、寄附の受付を始めました。その詳細はパソコンからは、次のページでご覧になれます。
http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/senkaku.htm

連絡先は、知事本局の尖閣諸島寄附担当 直通電話 03−5388−2206

◇◆当センターのWEBサイトから「人権救済法案」反対のチラシがダウンロードできます。
http://www.seisaku-center.net/images/jinken-chirashi20120401.pdf

◇◆当センターが発刊しているブックレット『こんなに危ない人権委員会―「自由」を脅かし、家族を壊す「人権救済法案」を許すな』(A5判32頁、300円)が好評です。当センターにお申し込みください(TEL03−5211−5231)。


2012年4月6日(金曜日)

中国船はなぜ跋扈するのか

中国船はなぜ跋扈するのか

 今年に入ってから中国艦船がわがもの顔で東シナ海を横行している。二月には二度にわたって日本の排他的経済水域(EEZ)で海上保安庁の測量船の調査活動を妨害し、三月には中国の海洋監視船が「尖閣は中国領だ」と主張して尖閣諸島・久場島の日本領海に侵入するなど、日本領海への侵入や日本側EEZでの日本船に対する妨害活動が「常態化」しつつある。

 何とも歯がゆいばかりだが、中国の攻勢の前に日本は為す術なく一方的に押しまくられるというのが現状と言えよう。これほどまでの彼我の差は一体どこから来たのか。問題が起こる度に、こう考えざるを得ない。

 

 少し古い話で恐縮だが、去年の十二月二十二日に百二十六冊の外交記録ファイルが公開された。そのなかにはかつての日中交渉に関連する文書が含まれ、尖閣問題に触れた部分もあった。とりわけ興味深いのは当時の田中角栄首相と周恩来首相との会談記録である。昭和四十七年の国交正常化交渉の第三回目の会談(九月二十七日)で、田中首相が「尖閣諸島についてどう思うか。私のところに、いろいろ言ってくる人がいる」と問いかけたのに対して周首相がこう答えた。

 「尖閣諸島問題については今回は話したくない。今これを話すのはよくない。石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ台湾も米国も問題にしない」と。この発言はマスコミでも注目され、各紙ともに「尖閣問題先送り」「周首相、尖閣問題を避ける」などと論評した。これまでも中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、石油資源目当てだったと見られていたが、この周発言によってはっきり裏付けられ、同時に中国側がそのことを自覚していたこともわかる。

 それよりも外交的に重要なのは、国交正常化交渉において中国側は尖閣領有権を提起しなかったことである。国交開始の際には境界について双方が合意するのは常識であり、国交交渉で提起しなかった領土問題をあとから「自国領土だ」と主張することは国際交渉では通用しない。

 その意味で、この周発言は日本のマスコミが評したような「先送り」などではなく、中国の尖閣諸島領有権の放棄、つまりは日本の領有権の正当性の証拠として位置づけられる貴重な記録と言える。

 

 この国交交渉をスタートとすれば、それから四十年を経て、なぜ今日の体たらくとなったのかということである。

 確かに言えることは、中国がこの四十年間、法的根拠はないことを自覚しつつも尖閣領有を主張しつづけ、その一方で海軍力を蓄積し、領海法など国内法も整備してきた。今では海上警察機能の強化にも力を入れ、最新鋭監視船が日本領海への侵入を繰り返している。

 それに対して、日本は自衛隊を正当に位置づける憲法改正を怠り、防衛力の整備もおざなりにしてきた。領土や領海に関する国内法も整備せず、海上保安庁の巡視船は厳格な法手続きに縛られて未だに中国漁船に対してさえ簡単には排除できず、監視船などの「公船」に対しては退去要請するしか手段を持たない。

 海洋法条約では領海内の無害でない航行を排除するために必要な措置を取れると定めているが、日本の国内法にはそうした排除規定はない。しかも、外国公船の排除は軍隊の任務なのだが、自衛隊には憲法によって軍隊としての機能と権限が与えられていない。その結果、領海に侵入して不法に居座った監視船など中国の公船に対しては、海上自衛隊に海上警備行動が発令されたとしても、護衛艦は海保の巡視船と同様の退去要請しかできないのが現状である。

 こうした彼我の差が、そのまま中国船の跋扈として現れていると言えるのだが、そこには、正当性がなくても「国家意志」としての覇権拡大のために四十年間にわたって営為を続けてきた中国と、正当性をもちながらそれを裏付ける努力を怠ってきた「国家意志」なき日本という、対照的な国家の姿が浮かんでくる。尖閣問題は領有権や海洋権益の問題であるとともに、憲法の欠陥が問われている問題でもある。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成24年4月号〉


2012年4月5日(木曜日)

再び動き始めた「人権救済法案」

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再び動き始めた「人権救済法案」

 いわゆる「人権救済法案」が4月20日にも閣議決定される予定だと、産経新聞(4月3日付)が報じています。

 今年初めには、他の法案と同じく3月中頃に閣議決定されるのではないかと見られていましたが、その後、消費税問題で民主党内が混乱し、人権救済法案に関連する動きは見られなくなっていました。

 ところが、3月末に消費税関連の法案が閣議決定された結果、推進派と法務省が巻き返しをはかり、人権救済法案が再び動き始めたということのようです。

 解散含みで政局の先行きはまったく不透明ですが、改めて民主党と法務省に対して、「人権救済法案反対」の意志表明をお願い申し上げます。(日本政策研究センター メール・ネットワーク4月4日付)


【民主党への抗議】
https://form.dpj.or.jp/contact/

【法務省への抗議】
https://www.moj.go.jp/mojmail/kouhouinput.php

◇◆当センターのWEBサイトから「人権救済法案」反対のチラシがダウンロードできます。ご活用ください。(携帯からはダウンロード出来ません)
http://www.seisaku-center.net/images/jinken-chirashi20120401.pdf

◇◆当センターが発刊しているブックレット『こんなに危ない人権委員会―「自由」を脅かし、家族を壊す「人権救済法案」を許すな』(A5判32頁、300円)が好評です。当センターにお申し込みください(TEL03−5211−5231)。


『こんなに危ない「人権委員会」』

こんなに危ない「人権委員会」

「自由」を脅かし、家族を壊す「人権救済法案」を許すな

『明日への選択』編集部・編

定価300円+税(A5判32頁)

国会上程間近の「人権救済法案」。「人権委員会」という新たな機関が設置されれば、言論の自由は脅かされ、家族や共同体が壊される。「人権救済法案」の問題点と背景、法案反対の論理をコンパクトに解説。「人権救済法案」に断固NOを!




■はじめに

 「人権委員会」という「新たな人権救済機関」なるものが民主党政権によってつくられようとしています。今年一月、野田改造内閣の小川法務大臣は、「新たな人権救済機関の設置」を重要課題として野田首相から指示されたこと、そして今年の通常国会にその設置のための法案(このブックレットでは、名称を「人権救済法案」と略します)を提出する予定であることを明言しました。

 この法案の詳細はまだ公表されていませんが、内容の骨子(法案の概要)は昨年十二月に法務省が発表しています。ポイントとなるのは次の四点です。

◇人権委員会は政府から独立し、強い権限を持った「三条委員会」として創設する。

◇この人権委員会は「人権侵害」及び「差別助長行為」を対象として調査や措置を行う。また、政府に対する意見提出も行う。

◇人権委員会には事務局を設置し、弁護士資格を有する職員を配置する。

◇地方には「非常勤の国家公務員」である人権擁護委員を置き、その任命にあたっては新たに「特例委嘱制度」を設ける。

 この内容については後で詳しく説明しますが、多くの人が「こんな制度が出来た場合、どうなるの?」「そもそも必要なの?」という疑問を抱くのではないでしょうか。人権を守ることに反対という人はいないでしょう。しかし、冷静に考えれば、いま「人権救済機関」というものを新設しなければならないほど、ひどい人権侵害が日本中で横行しているのでしょうか。もしそうだとすれば、国会やマスコミで取り上げられて大問題となっているはずです。

 しかも、政府をあげて行政改革・公務員削減をめざしているなかで、新たな行政機関をつくり国家公務員を増やそうというのですから、そこまでして作るのは「何のために?」という疑問も湧いてきます。

 では、この「人権委員会」にはどんな問題があるのでしょうか。また「人権委員会」が創設されればどんな問題が起こるのでしょうか。このブックレットでは具体的な事例を交えながらそうした問題を検討しています。そのなかから浮かび上がってくるのは、「人権救済」という言葉とは裏腹の、憲法で保障された国民の「言論の自由」を侵害する可能性がきわめて高いという、人権委員会の危険な実態です。

 例えば、学校の入学式で国歌を斉唱しようと呼びかければ人権侵害だ、朝鮮学校への補助金を止めるべきだと主張すれば民族差別だとして申し立てられ、人権委員会から調査されるという事態も充分に考えられます。また、人権委員会が、例えば現在の夫婦同姓制度は男女平等に反し人権侵害にあたるから変更すべきだなどと、政府に対して意見を表明することもあり得るのです。こんなことが許されてよいはずがないのですが、人権委員会が出来れば、充分にあり得ることなのです。

 このブックレットをお読みいただくことで、人権委員会のこうした危険な実態を一人でも多くの国民に知っていただき、人権委員会設置のための法案が国会へ提出され、成立することをストップさせようと声を上げていただければ幸いです。

お申し込みは、日本政策研究センター

(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。


目次

■はじめに

■人権委員会はこんなに危険

 「人権救済法案」から浮かび上がる数々の問題

1 否定できない一方的判断、勝手な解釈
2 コントロールできない「第四権力」
3 ボランティアも国家公務員に
4 人権委員会は「百害あって一利なし」

 

■言論の自由は脅かされ、家族や共同体が壊される

 「人権委員会」が創設されれば、こんな問題が起こる

1 脅かされる言論の自由
2 本当の危険は文化や家族の破壊にある
3 これでは学校教育は成り立たない―生徒指導も「人権侵害」に
4 人権委員会が生む「新たな人権侵害」

 

■人権委員会をつくる本当の狙いは何か?

 ここに民主党が人権委員会創設をめざす問題の核心がある

1 見当たらない創設の必要性
2 人権委員会創設の「うさん臭い背景」

 

お申し込みは、日本政策研究センター

(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。


2012年4月1日(日曜日)

「国の無策」が復興を遅らせる

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「国の無策」が復興を遅らせる

 東日本大震災から一年経った被災地を見るべく、再び宮城・岩手の町を歩いてみた。五カ月前に較べるとがれきは整理され、見た目はすっきりとはなっていたが、復旧・復興への力強い動きというものはまだまだ見られなかった。

 むろん、何も動き出していないのではない。各自治体の復興計画はようやくまとまり、いよいよ住民との話し合いが始まっていると説明された。しかし、それは要するに堤防はどうするとか、新たな町のゾーニングはどうだとか、集団移転の候補地はどこにするかといった話で、幸いにそれがまとまり、いよいよ土木工事となったとしても、更に個々の住民の暮らしや仕事が今後どうなっていくかという話になると、更に最短でも二年はかかるであろうという話だった。その間、この町の産業はどうなるのか、どうしてこんなに作業が手間取るのか、視察の間中、常にそのことを考え続けた。

 震災直後、政府は「創造的復興」というスローガンを掲げた。単なる復旧ではなく、新しい創造的な町をつくるのだ、と約束したのである。しかし、このままでは「創造的復興」どころか、町が土木的に再建されたとしても、町はその間にすっかり空洞化していた、という話にさえなりかねない。

 筆者にはその根因が、要は「国家の無策」であると思われてならなかった。被災地復興は、日本の中に突然出現した「3・11後の東北」という新しい「国」の経済発展の問題だ、と指摘する人がいた。とすれば、そんな事業は国にしかやれない。国はまさに開発独裁にも似た手法でこれに対処しなければ事は成就しない、というのが当然であるにもかかわらず、その国が逡巡してしまったのである。

 国は自治体主導で、といい、責任を丸投げしてしまった。ならばその代わり、自治体に権限を移譲したかといえば、国は事業の枠組みだの、最終的な査定権限だのは相変わらず握り続けたままなのである。むろん、縦割りの体制もそのまま。予算だって、ともかく復興債をというのではなく、まず償還をどうする、だったのは記憶に新しい。こんなことで「創造的復興」などやれるはずがない。

 「いざ戦争」という時に、償還財源を考えてやる国がどこにあるか、といった人がいたが、国になかったのはこの「非常時の感覚」でもあった。いかに現地の主体性を重んずるといわれても、平常時の権限しか与えられないなら、非常事態に直面している現場は立ち往生するしかない。かくて当初の計画は次々と後退し、現実との妥協が進行するしかなかった。

 被災地を歩いて感じたのは、やはり地場産業の役割であった。これが壊滅してしまったために、この春卒業の高校生たちは、ほとんどが都会へ出ていってしまった、という話を聞かされた。この現実を何とかするためには、企業誘致もいいが、ともかく地場産業を一日も早く復興させることであろう。そのためには、ともかく経営者を立ち直らせる施策が必要なのではないか。というより、ただこの一点に視点を集中させた緊急施策が求められるのではないか。

 しかし、意外なことに、こうした施策が実は手薄なのである。国はこの一、二年、六次産業化ということをいってきた。しかし、今石巻や気仙沼で求められているのはまさにそうした新たな産業基盤の創造であるのに、国の動きというものは全く見られない。つまり、この六次産業化を推進させるための関連産業の全体像を見据えた絵が全く描かれていないのだ。

 国とはもっとしっかりしたものだと思っていた、という関係者の失望の声を聞いたが、この言葉の意味するものは重い。自治体主導も住民の意思尊重も結構だが、しかし国がやるべきことは厳然としてある。それをやってほしい。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成24年4月号〉


『明日への選択』4月号表紙と目次

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『明日への選択』4月号表紙

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表紙写真=山本皓一(報道写真家)

 

『明日への選択』4月号目次

―interview―

☆古事記撰録1300年・現代に甦る日本人の「心のかたち」
 松浦光修(皇學館大学教授)

☆「南京大虐殺」の虚構を証明する米国人の記録
 松村俊夫(南京問題研究家)
 ・河村発言ではなく、政府の認識こそ訂正されねばならない。

☆「不登校」を立ち直らせる離島の高校の「志」【後編】
 勇志国際高校 熊本叡径理事長・野田将晴校長に聞く
 ・熊本県天草市の小さな島にユニークな教育方針と教育方法で注目を浴びている高校がある。生徒の多くは不登校や問題児。ところが、ほぼ全員が卒業し、大学に進学する生徒も多いという。いったいどんな願いのもとに設立され、どんな教育が実践されているのか。

 

―東日本大震災から一年―

☆「国の無策」が復興を遅らせる

☆東北被災地視察レポート・「創造的復興」はどこへ行った?
 ・壊滅した被災地はようやく建設面での復旧に着手する段階になったが、産業復興への道のりは遠い。取材で見えてきたのは、未曽有の大震災への対策といっても、事実上、通常時の感覚でしか物事が進められていないという現実であった。震災復興には何よりも日本の国家意志というものが欠落している。これでは「創造的復興」などできるはずがない。

☆東日本大震災の教訓とは何か
 ・「緊急事態」を忌避した菅首相が「無用の混乱」を引き起こした。

☆防災拠点としての神社の役割
 ・なぜ多くの神社が避難所として機能したのか
 荒木眞幸(前陸前高田市議会議員)

 

―opinion―

☆国柄を深く考えぬ改憲論議に思う
 ・自民党が近日発表予定の改憲案は、天皇を「元首」と規定するという。しかし、それを論ずる議員たちには日本国家のあり方に対するどの程度の掘り下げた認識があるのか。憲法を制定するに当たって何よりも大切なのは、この日本国家を成り立たせていくべき根本たる「国家の機軸」を明確にすることである。今、学ばなければならないのは、明治憲法に込められた「天皇観」「国家観」だ。「天皇は元首」と書くかどうか以前に考えるべきことがある。

☆地域崩壊の危機に地方議会はどう立ち向かうのか
 ・「危ない条例」阻止だけが地方議会の役割ではない。

☆なぜ中国船が跋扈するのか

 

―column―

☆魚がみた日本近代(第16回)
 水産国日本のあけぼの(その2)
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第16回)
 高知城 「内助の功」がもたらした土佐二十四万石
 濱口和久

☆世相クローズアップ
 ・「三平女子」の幸福度

☆百題百話
 ・「そんなこと言うな、最後まで諦めるな」
・「私もパパみたいに、人の役に立てるようになりたい」

☆地方議会政策情報
 ・横須賀市議会 自治基本条例案を継続審査へ
 ・長崎県五島市 国境監視の強化を求める陳情
 ・がれき受け入れ、ようやく各地で広がる

 

―history―

☆歴史の指標 塙保己一(一)
 日本の奇跡の人
 岡田幹彦(日本政策研究センター主任研究員)


年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

お申し込みは、日本政策研究センター(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。


2012年3月5日(月曜日)

「女性宮家」創設は「裏口からの女系天皇容認論

「女性宮家」創設は

「裏口からの女系天皇容認論」

有識者ヒヤリングはそのアリバイ工作だ

 

 いよいよ「女性宮家」創設問題を巡るヒヤリングが始まった。2月29日の第1回目は、評論家の田原総一郎氏と中世史が専門の今谷明氏で、両者とも基本的には「女性宮家」創設に賛成だという。予想されたとはいえ、創設推進の論議を先行させたのは露骨な世論誘導だと言ってよい。

 野田内閣は、「女性宮家」創設問題は「ご公務の分担」の問題であり、皇位継承とは切り離して論議すると言っているが、果たしてそうなのか。

 「ご公務の分担」の問題というならば、女性皇族がご結婚後に皇籍を離れられても、「准皇族」とでもいうべきお立場で活動していただくことなども充分に考えられる。

 ところが、そんな選択肢は無視して、最初から「ご公務の分担」の問題は女性宮家創設しかないと枠をはめて論議するというのだから、そこには「隠された意図」があると言わざるを得ない。

 仮に「女性宮家」を創設した場合、どうなるのか。最初はご公務分担に限られても、次の段階になれば、「女性宮家」のお子様にも皇位継承資格を認めようとなるのは自然の流れである。現に、小泉内閣時代の「有識者会議」が打ち出した女系天皇容認論も、その前段階として「女性宮家」の創設を提唱していた。

 その意味で、「女性宮家」創設は「裏口からの女系天皇容認論」であり、昨日から始まったヒヤリングはそのアリバイ工作とも言える。

 野田内閣はこうしたヒヤリングを月に1、2度行い、来年の通常国会に皇室典範改正案を提出する方針だというが、こうした女系推進論者の「隠された意図」を多くの国民に知っていただくことが急務である。(日本政策研究センター メール・ネットワーク3月1日付)


2012年3月1日(木曜日)

東日本大震災はわれらに何を教えたのか

カテゴリー:

東日本大震災はわれらに何を教えたのか

 東日本大震災のあの日より、早くも一年になる。大地震の衝撃もさることながら、その後テレビの画面に映し出された津波の惨状にわれわれは言葉を失った。

黒き水うねり広がり進み行く仙台平野をいたみつつ見る

 天皇陛下はこのようにお歌いになられたが、われわれはただ呆然とその映像に見入る他なかったのである。そしてその後、福島第一原発のあの驚愕事態が報じられた。あの時の恐怖と、それが今後どうなっていくのかの、心を押しつぶされるような不安は、今もなお強烈な記憶となって心に残る。

 あれから一年――。われわれはどんな思いで、この一年の日を迎えるべきなのだろうか。

 筆者がまず第一にいいたいのは、あの日のことをどのような意味においても、決して忘れてはならないということだ。天皇陛下は震災直後のお言葉で、「国民一人びとりが、被災した各地域のうえにこれからも長く心を寄せ、被災者と共にそれぞれの地域の復興の道のりを見守り続けていくことを心より願っています」とお述べになったが、そのことを今も心に留め続けるべきだということだ。

 昨年の天皇誕生日、天皇陛下は参賀の国民に対し、お言葉の大半を大震災のことに費やされた。拝聴していてただ涙が流れたが、われわれにできることは限られてはいても、被災地の人々のことにともかく心を寄せ続けなければならぬ、とその時改めて誓った。

被災地に寒き日のまた巡り来ぬ心にかかる仮住まひの人

 明けて正月、われわれはこのような天皇陛下の御製を拝した。

 第二は、あの大震災の中でわれわれが気づかされた事どもを、やはり決して忘れてはならないということだ。われわれの生活の中にあるのはただ安穏な「平時」だけではなく、必ず「非常時」というものがある。われわれはその「非常時」のことをいつも心の中のどこかに置いておかなければならない。国家システムにおいても、この「非常時」における対処方針を事前に万全な形で整えておかなければならない。あの時、この重大事を、われわれは身に沁みて知らされたが、このことを決して忘れてはならないということだ。

 それだけではない。われわれはあの時、国家の重み、国民の絆の大切さ、公的精神の崇高さ、といったものを改めて知らされた。国家主権の相対化だの、個の尊厳だの、人権だの、地域主権だのという、戦後民主主義のイデオロギーをたっぷり学ばされた国民が、あの時、かかるイデオロギーが所詮は空中に楼閣を築いたにも等しい「迷妄」にすぎないこと、そしてこの世の真実は「国家と共同体」の中にあることを、強く思い知らされたのである。その貴重な「気づき」を、決して過去のものにしてはならないということだ。

 第三は、この日本を、この試練を乗り越えて、今一度「活力あふれる日本」に再生しなければならないということだ。この日本はこれまでも様々な危機を克服して不死鳥のように甦ってきた。この日本の底力を、もう一度皆で奮い起こさねばならないということである。敗戦後の日本の廃墟からの復興、石油危機の克服、バブル経済の清算、阪神淡路大震災からの再生等々、日本国民はこれらの試練を次々と乗り越えてきたのだ。

 今日、われわれの前にあるのは大震災の痛手だけでなく、「失われた二十年」といわれる経済、深刻な少子化、めざすべき新たなる目標の喪失、といった危機である。しかし、大震災はその一方で、日本国民の中に今なお潜在する素晴らしい「国民的資質」を改めて知らしめてくれた。とすれば、われわれはそれを確認しつつ、この未曾有の国難ともいうべき試練に対していくべきなのだ。大震災一年に当たっての確認である。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成24年3月号〉


結論ありきの「女性宮家」創設論議

結論ありきの「女性宮家」創設論議

 天皇陛下には、二月十八日、心臓の冠動脈バイパス手術をお受けになられた。その日、皇居坂下門には老若男女、年齢も格好も様々な人たちがお見舞いの記帳に訪れていた。手術が無事終わり、一日も早くご回復なされますようにと願って、多くの人が寒風の中を並んでいる光景を目にし、天皇陛下と国民の固い紐帯を改めて感じないわけにはいかなかった。

 

 そうしたなか、野田内閣は女性宮家を創設しようとヒヤリングなどの手続きを始めるという。民主党政権は、女性宮家の創設は皇位継承問題とは切り離して検討すると言っているが、実態は危険な「裏口からの女系天皇容認論」であることは明らかと言える。

 それは、野田政権がこの問題を担当する内閣参与として園部逸夫氏を就任させたことからも言える。園部氏は、小泉内閣時代に皇室典範改訂の「有識者会議」が出来た際、座長代理として女系天皇の容認という報告書をまとめたことでも知られているが、それ以前に皇位継承を巡る氏の基本認識には致命的な欠陥があると言わざるを得ないからである。

 園部氏は、今から八年前の平成十六年五月、参議院憲法調査会で参考人として皇位継承問題についての見解をこう語っている。

 まず、自らの考え方は「憲法が定める天皇制度の考え方」を基準としていると言い、皇位継承制度は「国民が考える象徴制度にふさわしい制度である」ことがまず第一だと述べる。そのうえで、「男系女系という……論点」について、「この問題は、皇位継承の伝統とは何かであり、……皇位は代々の天皇の血統に属する方が継承することが制度にとって最も重要」とし、さらに「男系ではないということをもって、それが象徴天皇制度にふさわしくないとか象徴天皇という地位に反するというようなことはない」とも述べている。

 

 この皇位継承を巡る園部氏の認識には重大なゴマカシがある。

 百二十五代の皇統は男系のみで継承され、そこには一つの例外もない。これが歴史的事実である。園部氏のように「皇位継承の伝統とは何か」と問うならば、この男系継承の伝統を措いて他にない。ところが、こうした男系継承の伝統は、園部氏の頭のなかでは単なる「血統に属する方の継承」、つまり血統がつながっていればよいという程度に貶められてしまう。

 また、憲法第二条は「皇位は、世襲」と規定している。世襲と言っても様々な形があろうが、世襲されるのは「皇位」であって、どこかの家の世襲ではない。つまり、憲法は皇位継承の伝統、つまりは男系継承を大前提としていると言わねばならない。

 ところが、園部氏は「憲法」を基準とすると言いながら、皇位継承について単に「天皇の血統に属する方が継承することが制度にとって最も重要」などと結論づけるわけで、それはゴマカシ以外のなにものでもない。そこから見えてくるのは、憲法解釈というより、「皇位継承の伝統」に価値を置かないという氏の価値観である。

 

 また、園部氏は何度も「象徴天皇」という言葉を使い、皇位継承制度は「象徴天皇」に相応しいかどうかが基準だとも言っている。

 しかし、憲法第一条が「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と規定しているように、「象徴」はあくまでも天皇の役割規定の一つであり、「象徴」は天皇というご存在の本質を規定したものではない。

 その意味で、皇位継承を論じるなら、「象徴天皇」というより、本質規定である「天皇」について論じなければならないはずなのだが、園部氏は「天皇」については何も論じてはいない。しかも、「象徴制度」という言いまわしをし、「象徴天皇」から「天皇」を抜いた言葉遣いを何度もしている。そこからは「天皇」よりもむしろ「象徴」の方に重きを置くかのようなニュアンスすら感じられる。

 こんな人物が議論のとりまとめをするのだから、女性宮家創設論議は最初から結論ありきなのは明らかだと言えよう。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成24年3月号〉


『明日への選択』3月号表紙と目次

カテゴリー:
『明日への選択』3月号表紙

東日本大震災から一年

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表紙写真=山本皓一(報道写真家) 「見渡す限り津波の猛威に蹂躙された東北沿岸部。大漁旗が力強く翻る様子に、思わず車を止めた。誰が立てたか、自らを元気づけようとする東北人の芯の強さを見たような気がした。瓦礫の向こうの夕焼けの如く、東北の未来が光り輝かんことを祈る」(平成23年6月15日宮城県名取市で撮影)。

 

『明日への選択』3月号目次

―interview―

☆今、日本の道徳教育に何が問われているのか
 貝塚茂樹(武蔵野大学教授)
 ・そもそも人間は、基本的に一人では生きていけない。つまり、他者との関わりの中でしか生きていくことができない存在です。その他者とは、隣人、社会、国家、人類、自然、神、さらに歴史や死者の存在も入ってくる。そういう様々な関わりの中でしか人間は生きていけないという宿命を背負っていて、他者との関係性がどうしても問題になってくる。その関係性こそが道徳だと私は思うのです。

☆「不登校」を立ち直らせる離島の高校の「志」
 勇志国際高校 熊本叡径理事長・野田将晴校長に聞く
 ・熊本県天草市の小さな島にユニークな教育方針と教育方法で注目を浴びている高校がある。この高校の生徒の多くは不登校の子供や他の学校で問題を起こした生徒だ。ところが、ほぼ全員が単位を取得して卒業し、大学に進学する生徒も多い。いったいどのような願いのもとに設立され、どのような教育が実践されているのか。

☆御遷宮 千三百年の歴史と今日的意義(第3回・完)
 河合真如(神宮司庁広報室室長)
 明年、平成25年秋、伊勢神宮では「第62回式年遷宮」のクライマックスを迎える。この長い歴史と伝統を誇る御遷宮は一体どのような意義を持つのか。また平成の今日、われわれは御遷宮をどのような気持ちで迎えればよいのか。

 

―opinion―

☆農業改革「大規模化・輸出拡大」論の根拠なき幻想
 ・TPP参加をバネに日本農業の構造改革を行い、大規模化によるコスト削減を実現していけば、農業を輸出をも視野に入れた「成長産業」に変えていくことができる、という。だが事実に基づいて検証すると、いかに大規模化し、日本のおいしい米を輸出したとしても、外国とは勝負にならない。「大規模化・輸出拡大」論は現実に立脚しない幻想だ。

☆「内なる脅威」にさらされる日本の国土
 ・自衛隊駐屯地の隣接地も、国境の島も、水源の森林も、外国資本が自由に買収することが出来る――これがわが国の現状である。ある日、わが町の水源地が外資のものだと分かったとか、国境の離島がいつの間にか中国の国有企業の所有になっていたなどということも充分にあり得るのだ。

☆「社会保障と税の一体改革」に仕掛けられた「罠」
 ・読んでみたらトンデモなかった一体改革の大綱。野田内閣は、社会保障改革を謳いながら出生率回復に寄与しない施策をまたまた推進しようとしている。一人の現役世代が一人の高齢者を支える「肩車」型社会が到来すれば、日本の社会保障制度は維持できない。財政の面から見ても、出産や子育てを他人任せにしてもよい時代は過ぎ去ったのだ。目指されるべきは、出産・子育てが「公共的な仕事」としてその価値が広く共有される社会だ。

☆東日本大震災はわれらに何を教えたのか

☆結論ありきの「女性宮家」創設論議
 

―column―

☆一刀論断
 再び「政治と文学」論を
 ・戦後レジーム克服へ「民族の詩魂」を恢復せよ
 小川榮太郎(文藝評論家)

☆知っておいてためになる話
 ・東シナ海の「固め」に入った中国
 ・太平洋にシフトする中国の海洋進出

☆魚がみた日本近代(第15回)
 水産国日本のあけぼの(その一)
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第15回)
 鶴ヶ城(会津若松城) 徳川幕府への忠誠心が生んだ悲劇の舞台
 濱口和久

☆深層リポート・在日中国人は今……(第22回)
 重慶ショックの波紋
 余凡

☆世相クローズアップ
 ・IT断食のすすめ

☆百題百話
 ・外国人も絶賛する富士山の美しさ

☆地方議会政策情報
 ・さいたま市 「家族の絆」強化へ「ノーテレビ・ノーゲームデー」
 ・鳥取県日南町 地下水保全条例を制定
 ・米沢市 自衛隊等に感謝する決議

 

―history―

☆歴史の指標 山岡鉄舟(完)
 鉄舟と武士道
 岡田幹彦(日本政策研究センター主任研究員)


年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

お申し込みは、日本政策研究センター(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。


2012年2月1日(水曜日)

新法相の「人権感覚」

新法相の「人権感覚」

 一月十三日、野田内閣の改造があった。世間では「素人」発言の一川防衛相の後任に、またまた素人の田中直紀氏が就任したことが話題になっているが、内閣の顔ぶれが多少代わる改造にはあまり関心はなかった。ただ、誰が法務大臣に就任するのかには関心があった。いわゆる「人権救済」法案なるものが通常国会への提出予定法案とされており、この法案に対する野田内閣の姿勢を知るうえで、誰をその所管大臣に任命するのかは一つの手がかりともなるからである。

 結果は予想通りというか、菅グループの弁護士出身議員である小川敏夫という参議院議員が法相に就任した。この新法相は、外国人地方参政権推進派として知られ、人権救済機関設置の推進派とも言われている。むろん、任命に当たって野田首相から「新たな人権救済機関の設置」も重要課題の一つとして取り組むようにとの指示をうけたというのだから、この法案が政治日程に上る可能性はますます高くなったと言えよう。

 

 ところで、この小川氏の名前を聞いて、思い出したことがある。安倍内閣当時、米国議会での慰安婦決議が問題になったことがあったが、その際、安倍首相との間で質疑を交わしたのが小川氏だった(平成十九年三月五日・参議院予算委員会)。

 改めて議事録を確認すると、こんなやり取りをしている。小川氏が米国議会で元慰安婦という女性が行った「証言」を持ち出し、強制連行があったのだ、それを首相は否定するのかと質問したのだが、安倍首相は「裏付けのある証言はない」、「事実誤認があるというのが私どもの立場だ」、「(米国議会で)決議があっても謝罪することはない」と答弁した。こうした答弁を受けて小川氏はさらにこんな趣旨の発言をしている。

 「(事実誤認だと言って)こうした人権侵害についてきちんとした謝罪なり対応をしない人権感覚、あるいは過去に日本が起こした戦争についての真摯な反省が、やはりまだまだ足らないんではないか」と。

 安倍首相は「私は全くそうは思わない。戦後六十年、日本は自由と民主主義、基本的な人権を守って歩んできた。小川委員は殊更そういう日本の歩みをおとしめようとしているのではないか」と首相答弁としてはかなり踏み込んだ反論をしている。

 当時は、民主党にはこんなバカな議員がいるのだなという印象しかなかったが、改めてその応酬を読んでみると、ともかく慰安婦への謝罪、戦争の反省が重要だ、という小川氏の人権感覚とやらがうかがえる場面でもあったことが分かる。こんな歪んだ人権感覚と歴史認識を持つ人物が法相に就任し、しかも「人権救済」機関の設置に取り組むというのだから、なんとも危ない話ではある。

 

 それと同時に、小川氏の質疑からは人権救済機関なるものの危険性も連想させられる。

 「強制連行された」という「申し立て」だけで人権侵害だと決め付け、一方、その「申し立て」には裏付けがない、事実誤認があるという安倍首相の答弁に対しては「人権感覚が…まだまだ足りない」という。これでは人権侵害を受けたという「申し立て」があれば、事実認定などは二の次だと言わんばかりである。また、そうした「申し立て」に対しては先ず「きちんとした謝罪」をするのが正しい人権感覚だとも言っている。

 民主党がつくろうとしている「人権救済機関」は、第四権力と言えるほど強大な権限を持つ。その機関がこんな「人権感覚」のもとでつくられたら、どうなるのだろうか。例えば、元慰安婦という人たちがやってきて、日本国家による人権侵害があったと「申し立て」を行ったら、民主党政権から任命された「人権委員会」はどう判定するのだろうか。何とも恐ろしい話ではないか。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成24年2月号〉

 

 


『明日への選択』2月号表紙と目次

カテゴリー:
『明日への選択』2月号表紙

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表紙写真=山本皓一(報道写真家)「尖閣諸島魚釣島」

 

『明日への選択』2月号目次


―interview―

☆「ポスト金正日」の朝鮮半島をどう読むか
 西岡力(東京基督教大学教授、「救う会」会長)
 ・金正日の死後、追悼する雰囲気が生まれ、北が安定しているかどうかという天気予報みたいな解説ばかりが流されたことに、私は大きな違和感を持ちました。追悼の心を持つのであれば、金正日の犠牲になった人たちに対してこそ持つべきだと思うのです。

☆NHK「坂の上の雲」海軍軍事考証を終えて
 平間洋一(元海将補、元防衛大学校教授)
 ・「本木さんは、私以上に立派な海軍士官に」

☆御遷宮 千三百年の歴史と今日的意義(第2回)
 河合真如(神宮司庁広報室室長)
 明年、平成25年秋、伊勢神宮では「第62回式年遷宮」のクライマックスを迎える。この長い歴史と伝統を誇る御遷宮は一体どのような意義を持つのか。また平成の今日、われわれは御遷宮をどのような気持ちで迎えればよいのか。

 

―Lecture abstract―

☆日本神話に学ぶ伝統の力
 後藤俊彦(高千穂神社宮司)
 ・神道が「異文化体験」?/高千穂と建国神話/日本民族のコア・パーソナリティ/心の奥底にある「天皇国家日本」/震災を契機に「世直し」を

 

―opinion―

☆「国家再構築」への課題を考える
 ・国家主権がぶつかり合う時代に「自立への意志」を欠き、国家を支える社会基盤は「総崩れ」状況――「国家再構築」が求められる今、その課題を考えたい。

☆女性宮家問題 「もう一つの選択肢」を排除するな
 ・皇位継承の歴史から考える「元皇族の皇籍復帰」

☆なぜ人権委員会の創設を許してはいけないのか
 ・国会上程間近!「新たな人権救済機関」反対の論理

☆井上毅の「永世皇族主義」に学べ

☆新法相の「人権感覚」

 

―column―

☆一刀論断
 国策で「空の産業」の育成を
 ・旅客機アジア共同開発の提言
 百合草三佐雄(元川崎重工常務取締役航空宇宙本部副本部長)

☆魚がみた日本近代(第14回)
 逆風に帆を揚ぐ
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第14回)
 岡崎城 天下人家康ゆかりの聖地
 濱口和久

☆深層リポート・在日中国人は今……(第21回)
 就職も中国人と競争する時代
 余凡

☆知っておいてためになる話
 ・米国「アジア回帰」でも安心できない理由
 ・中国なしで成立せぬダーウィンの経済
 ・東ティモールも中国が経済占領?
 ・インドネシアにも手が回っている

☆世相クローズアップ
 ・それは、あなた自身が解決すべきことです

☆百題百話
 ・「親御さんや学校の先生のなんたる教育ぶり」
 ・「やっぱり基礎はたたき込まないと」
 ・「日本人兵士の規律正しさに感心しました」

☆地方議会政策情報
 ・拙速な人権侵害救済法の制定に反対する意見書などを可決
 ・奈良県御所市 神話教育について質疑と要望
 ・東京都 朝鮮学校への補助金24年度予算にを計上しない決定

 

―history―

☆歴史の指標 山岡鉄舟(五)
 幕臣から天皇の侍従へ―明治天皇の御親愛・御信頼
 岡田幹彦(日本政策研究センター主任研究員)


年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

お申し込みは、日本政策研究センター(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。

 


井上毅の「永世皇族主義」に学べ

井上毅の「永世皇族主義」に学べ

 女性宮家創設の問題については、『明日への選択』2月号26頁以下にも書かせていただいたが、要は悠仁様の後の安定的な皇位継承を、女系ではあれ、それでも近親の女性皇族のお子様をもって備えとするか、あるいは血筋は遠くとも、あくまでも男系男子をもっての備えとすべく、元皇族の男子子孫に新たに皇族身分を取得していただくか、この二つに一つの選択だといってよいだろう。

 むろん、その中間に、女性皇族と元皇族男子子孫にご結婚していただいて、その男子のお子様に悠仁様以後の皇統の備えになっていただく、という道も考えられはする。しかし、それはあくまでもそのような話になれば有り難い、という話であり、そんな実現性も定かならぬ話に、国の運命を一方的に委ねることはできない、という話でもある。その意味では、やはりこの二者択一に戻る他ない、というのが筆者の認識でもある。

 これは最近聞いた話だが、この女性宮家創設の動きの仕掛け人といってもいいある官僚OBが、ある会合で、女性宮家は安定的な皇位継承を考えてのことだ。元皇族の皇籍復帰(正確には元皇族男子子孫の皇籍取得)などという馬鹿げたことを主張する向きもあるが、そんなことは断じて認められない。女性宮家創設(すなわち女系の容認)しか選択肢はあり得ない、と断言したとのことである。「衣の下から鎧」どころか、ご公務分担だけを考えての女性宮家創設などという主張は、要は国民説得のための一時的な方便でしかない、というまさに開けっぴろげな告白なのである。とすれば、やはり女系容認となっても近親の女性宮家の創設か、あるいは血筋は遠くなっても男系維持か、の問題に立ち戻って考える他ない。

 ところで、かく考える時、ここでどうしても紹介しておきたいのが、男系皇統の維持のために「永世皇族主義」の必要を唱えた井上毅の主張である。彼が旧皇室典範の原案起草に携わった時、実は当時の関係者の中にも明治天皇の血筋から遠い世襲親王家に由来する皇族を可能な限り排除していきたいとする動きがあった。しかし井上はかかる主張を断固非とし、「王位継承法は親属の親疎よりも、寧ろ系統を取ること」が重要であるとし、血筋の遠くなった皇族を順次臣籍降下させていくべきとする主張に、強く反論しているのである。以下は井上の言葉だ。

 「五世以下皇族にあらずとすれば、忽ち御先代に差し支えを生ずべし。継体天皇の如きは六代の孫を以て入れて大統を継ぎ玉へり。不幸にして皇統の微(かすかなこと)、継体天皇の如きあらば、五世六世は申す迄もなし。百世の御裔孫に至る迄も皇族にて在はさんことを希望せざるべからず」

 だからこそ、血筋が遠くなったからだの、皇族の数が増えれば財政的に大変だの、という単純な理由で皇族を減らすようなことをしてはならず、またただ直系が好ましいとの感情的な理由で無闇に皇族の数を減らそうとすれば、いつか必ず男系皇統の維持にとって危機となる時がやってくるというのである。井上は続けていう。

 「継体天皇、宇多天皇の御場合の如きは大に不祥の事と云はざるべからず。然らば仮令多少の支障はあらんとも、成るべく皇族の区域を拡張すること、誠に皇室将来の御利益と云ふべし」

 継体天皇は越前まで探しにいってようやく皇位を継承してもらうという例であったし、宇多天皇は一度臣籍に下った後、再び皇籍に復帰され、即位されるという例になった。しかし、それは結果はともかく、二度とそのような異例を繰り返さないための平時からの備えが必要だという教訓なのだ。

 とはいえ戦後、宮家の臣籍降下が強要され、再び危機に直面しているのが現状でもある。ここはやはり井上の主張に学ぶべきだ。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成24年2月号〉


2012年1月21日(土曜日)

野田首相に皇室の大事を論じる資格はない

野田首相に皇室の大事を論じる資格はない

 野田首相が一昨日(17日)のインタビューで、「女性宮家」創設問題で皇室典範改正の素案を早期にまとめる考えを示したが、首相の言葉づかいには皇室への敬意が感じられず、ゴマカシだけが目立つ。以下、そのままの発言を産経ウエブ版から引用する。

 「あの、いわゆる男系、女系の議論……なかなかこれは小泉内閣のときにもチャレンジしましたけれども、そう簡単ではないですね」

 「一方で、……現状をこのまま放置しておくと、おそらく悠仁親王のころにはおそばにあまりいらっしゃらなくなってしまうんですね。皇室の方が」

 「やっぱり皇室の活動を安定的なものにしていくということ、それから天皇皇后両陛下の公務のご負担を減らしていくというときに、私はやっぱり一定のスピード感をもって、……この問題に早く結論を出すということは一定の緊急性があるというテーマだと思っています」

 「……女性宮家の創設に限って議論をしていく。旧皇族をどうするかとか。いろんな論点は出てくるかもしれませんが、……これは実務的に進めていきたいと思います」

 「チャレンジしました」「スピード感をもって」「旧皇族をどうするかとか」「実務的に進めていきたい」という言葉からは、皇室の重大事について語っているという緊迫感は感じられない。

 そればかりか、この発言には明らかなゴマカシがある。両陛下の「公務のご負担」軽減は必要だが、それには先ずどの「公務」を軽減対象とするのかを整理するかが先決であり、「ご負担軽減」と「女性宮家」創設の「緊急性」とは結びつかないからである。

 また、「悠仁親王のころには(皇族が)おそばにあまりいらっしゃらなくなってしまう」と言うが、それはまさに皇位継承の安定性に関わる重大問題である。その肝心な問題を避けて、安定した皇位継承の上で展開される「皇室活動」にだけ目を向けて「実務的に」結論を出すというのだから、これは本末転倒である。

 こんなゴマカシの「女性宮家」創設の狙いは「女系天皇」容認への布石と見る他ない。野田首相に皇室の大事を論じる資格はない。(日本政策研究センター メール・ネットワーク1月19日付)


2012年1月1日(日曜日)

憲法第二条の「世襲」をどう考えるか

憲法第二条の「世襲」をどう考えるか

 「女性宮家」創設問題については本誌でも大原康男氏に論じていただいているが、やはり「裏口からの女系天皇容認論」でしかない、という見方が適切だろう。

 いや女性宮家の創設と女系天皇容認は結びつけて考えるべきではなく、女性皇族の配偶者や女系となるそのお子様を皇族に含めるかどうかも今後議論して決めればいい、と推進論者はいう。しかし、ならば何のための女性宮家なのかと問わねばならない。天皇のお仕事をお助けし、皇室のご活動を維持するため、とかかる論者たちはいう。しかし、もし一代限りの皇族ということに留まるならば、悠仁様以後の代には既に姿を消しており、本当に皇族が必要とされる時には役に立たないのだ。

 とすれば、やはりそのお子様に皇位継承権を与えるべきだ、となることは火を見るよりも明らかであろう。一代限りの女性宮家などそもそも意味をなさないのだ。

 むろん、女性皇族のどなたかが男系の血筋を引かれる元皇族子孫とご結婚なされて女性宮家を創設されるといった場合があるかも知れない。となれば、その場合に限ってはそのお子様に皇族身分を認める――といったあり方もあるのではないか、とする意見もあるいはあるであろう。しかし、そこまで男系を重視するのなら、むしろ正々堂々と正面から、一人に限らず元皇族子孫複数に皇族身分を取得してもらう方策を考えるべきではないか、と考えるのだ。このようなご結婚は好ましいにせよ、かかる確実な実現保証のない僥倖にわが国の運命を委ねるわけにはいかない、と考えるからだ。

 その意味で、問題はやはり男系維持か女系容認かというところに戻ってこざるを得ない。この問題を決着させない限り、かかる小手先の対応では問題の根本解決にはならないというべきだからだ。

 そこで、ここで確認しておきたいのは最も根本となる原則である。これまで百二十五代の皇統は男系のみで継承されており、そこには一例といえども例外はないという事実だ。それはわが国の不文の法であるともいえようが、筆者はここで、それは現憲法にも継承されている原則でもある、とあえて指摘したい。憲法第二条は「皇位は世襲」と規定するが、ここにある「世襲」はあくまでも男系を前提にしたものであるからだ。

 というのも、現皇室典範はこの第二条の規定を受けて作成されたが、その起草に当たった宮内庁当局者は男系主義を《同条から必然的に帰結される原則》と解し、皇室典範を起草したと証言しているからである。証言者は高尾亮一氏、場所は政府憲法調査会である。

 「皇位の世襲ということはどういうことかということになりますと、これは皇室制度の伝統について考えてみなければならない。その伝統は……全部男系である。男系であるということについては一つの除外例もありません。……だからこの第二条の世襲ということは、男系をさすものであろうということを、まずわれわれは考えました」(憲法調査会議事録)

 一口に世襲といっても、そこには歌舞伎役者の名跡の世襲のようなものもあれば、伝統的な商家の世襲のようなものもある。しかし、第二条は「皇位」の世襲についていっているのであるから、それは皇室制度の伝統の中で考えなければならない。そこで男系が導き出された、というのである。

 むろん、これは高尾氏のみならず、戦後一貫した政府の憲法解釈の立場でもあった。にもかかわらず、それが遺憾ながら、最近忘れ去られてしまっているのである。つまり、男系・女系の問題は単に皇室典範の問題に限られず、憲法にも関わる問題だということなのだ。女系容認をいう者は、この憲法第二条をどうするかから議論を始めるべきだろう。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成24年1月号〉


『明日への選択』1月号表紙と目次

カテゴリー:
『明日への選択』1月号表紙

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表紙写真=山本皓一(報道写真家)

 

『明日への選択』1月号目次

―interview―

☆「女性宮家」創設に騙されるな
 大原康男(國學院大学教授)
 ・天皇陛下の御公務をお助けするために「女性宮家」を創設したいというが、これは裏口から「女系天皇」への道を開こうとするトリックだ。

☆TPPが国を亡ぼすこれだけの理由
 中野剛志(京都大学大学院准教授)
 ・第一人者が総括するTPP問題

☆御遷宮 千三百年の歴史と今日的意義
 河合真如(神宮司庁広報室室長)
 明年、平成25年秋、伊勢神宮では「第62回式年遷宮」のクライマックスを迎える。この長い歴史と伝統を誇る御遷宮は一体どのような意義を持つのか。また平成の今日、われわれは御遷宮をどのような気持ちで迎えればよいのか。

 

―opinion―

☆地域再生に「精神のよりどころ」は不要なのか
 ・震災復興と「神社再建」の課題を考える。

☆2012年世界展望・「国家再構築」の時代
 ・欧州経済危機、米国経済の停滞、中国の軍事的台頭、TPP問題……「国家はいずれ克服され、そこに一つのグローバルな市場が誕生する」という従来の言説では、もはやこれら「国家」を問う現実に対処することは不可能だ。

☆売れっ子作家の「事実婚」奨励論を嗤う
 ・事実婚が少子化対策だというのは「世迷い事」だ。

☆憲法第二条の「世襲」をどう考えるか

☆テロ国家の本質を忘れてはならない
 

―column―

☆食料と環境の時代
 ・TPP論議に欠落するもの
 ・アエノコトとは?
 ・日本にしか残らぬ収穫儀礼

☆一刀論断
 「次の中国」の行方を左右する“黒馬”
 ・「習近平指導部」の性格を占う二人
 福島香織(ジャーナリスト)

☆魚がみた日本近代(第13回)
 史上最大の水商売(その2)
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第13回)
 安土城 信長の「天下布武」を象徴する安土城天主
 濱口和久

☆深層リポート・在日中国人は今……(第20回)
 アイデンティティに悩む中国朝鮮族
 余凡

☆世相クローズアップ
 ・「囲碁ガール」って何?

☆百題百話
 ・老舗の教え
 ・美を追求する日本人の国民性

☆地方議会政策情報
 ・北海道 水資源保全条例の制定へ
 ・東京都 朝鮮学校補助金問題で予算削除を検討
 ・静岡県島田市 東京都に続き、震災がれきの受け入れへ

 

―history―

☆歴史の指標 山岡鉄舟(四)
 明治維新を成就した南洲・海舟・鉄舟の固い絆
 岡田幹彦(日本政策研究センター主任研究員)


年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

お申し込みは、日本政策研究センター(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。


2011年12月27日(火曜日)

「テロ国家」という事実を忘れるな

「テロ国家」という事実を忘れるな

 北朝鮮の金正日総書記が死亡し、多くのマスコミが後継者・金正恩はどんな人物だとか、体制の継承が順調に行くのかどうか、を巡って報じている。

 一方、金正日が起こした事件はあまり問題にならない。マスコミは一斉に金正日が「テロ国家」の指導者であり、独裁者だったことを忘れたかのようである。

 金正日の犯罪は大きな事件を挙げただけでも、古くは1983年の韓国首脳を狙ったアウンサン廟爆破、87年の大韓航空機爆破。最近では2010年の韓国海軍の天安艦爆沈と延坪島砲撃など、いくつもある。

 大韓航空機爆破は金正日の「親筆指令」によって行われたし、その他の事件も彼が直接的もしくは最終的な命令者であることは間違いないとされている。

 むろん、日本人の拉致事件も金正日の指示だったことは数々の証言で明らかである。

 北朝鮮国内では95年から数年の間に起こった餓死事件の犠牲者は300万人以上と言われているが、その責任も金正日にあることは確かである。

 いまマスコミが論じている後継者だとか、権力の継承体制というのは、「テロ国家」の後継者であり、「人権侵害国家」の権力継承なのである。むろん、核兵器もミサイルも継承される。この点を忘れて後継問題を議論してもあまり意味がないとさえ言える。

 一方、この事態に日本はどう対応したのか。野田首相は「特別放送」の重大性に気付かず街頭演説に出かけようとし、国家公安委員長は安保会議に欠席、藤村官房長官は「哀悼の意」を表明する(後に個人的見解と修正)という間抜けぶりである。

 北朝鮮問題が主要議題となった中国訪問で、野田首相は「中国の役割は重要」と言っただけで、金正日の「功績」を称え、北朝鮮の後継体制を擁護する中国に対して、何ら注文をつけることもなかった。

 野田政権のもとで、わが国の外交も危機管理もまったく機能していない。こんな政権がつづけば日本は崩壊する他ない。

☆一年間、ご愛読ありがとうござました。来年もよろしくお願い申し上げます。

(日本政策研究センター メール・ネットワーク12月27日付)


2011年12月16日(金曜日)

危険な「人権救済機関」法案が国会上程へ

危険な「人権救済機関」法案が国会上程へ

 昨日(12月15日)、法務省が「人権救済機関設置法案」の概要を公表しました。同時に、民主党法務部会に対しても説明を行い、このいわゆる「人権救済機関」に関する法案が来年の通常国会に上程される公算が大きくなっています。

 公表された法案概要を見ると、人権委員会の位置づけが、かつて民主党の主張していた内閣府の外局ではなく法務省の外局となっている点が違うくらいで、独立性の高い「三条」委員会とすることなど民主党案そのままの「危険な法案」です。

 そもそも、この「救済機関」なるものが対象とする「人権侵害」とは何かが明確にされていません。また、人権被害に対する調査は任意とされていますが、人権委員会が人権侵害だと認めれば、「公表」や「告発」もできる規定となっています。

 例えば、この法案を推進してきた勢力が朝鮮学校に対する補助金が出ていないケースを民族差別、学校での国旗・国歌の指導を人権侵害だとしてきたことを考えれば、各地で起こっている朝鮮学校への補助金停止の運動や入学式での国歌斉唱に対して、人権委員会が人権侵害だと問題化させることも充分にあり得るのです。

 また、現在は地方で人権擁護の活動を行っているのは民間人ボランティアの人権擁護委員ですが、法案概要によると、名称は現行のままですが、身分は民間人ではなく非常勤の国家公務員となります。現行人員がそのまま移行すれば、一挙に全国で約1万4千人の国家公務員が増加するわけです。

 さらに、法案概要によると、新たな人権擁護委員は、市町村長の推薦によって委嘱されるだけでなく「特例委嘱制度」が新設されることとなっています。この法案を推進してきた勢力の主張から考えれば、おそらく「人権活動の経験者」「人権擁護を支持する団体の構成員」に対して委嘱されるのではないかと考えられます。

 だとすれば、いわゆる「人権活動家」が国家公務員となるようなものであり、この法案を推進してきた勢力に対する「援助策」となる可能性もある内容だと言えます。

 法務省はこの法案は通常国会への提出予定法案としているようですが、まだ提出が決定したわけではありません。国会に提出させないために、民主党、法務省への反対意見をお願い申し上げます。

法務省 https://www.moj.go.jp/mojmail/kouhouinput.php

民主党 https://form.dpj.or.jp/contact/

(日本政策研究センター メール・ネットワーク12月16日付)


2011年12月8日(木曜日)

『日露戦争』 もくじ

日露戦争

世界史を変えた日本人の誇り

日本人のための歴史人物講座2

日本政策研究センター編
A5判40頁 定価350円

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」で再び注目される日露戦争。それは「明治」という時代を作った国民の物語でもある。乃木希典、東郷平八郎、広瀬武夫……そして明治天皇。日本人なら知っておくべき英雄たちのエピソードが満載。高校生にも読める、人物から学ぶ歴史読み物シリーズ。(書き下ろし/平成18年刊)




本文より

 日露戦争勝利百年を迎えた。日露戦争は百年前の遠い昔話であろうか。今日の私たちにもはや関係のない出来事であろうか。決してそうではない。現代の日本と日本人は日露戦争の遺産によって生かされているといって言い過ぎではない。

 いま多くの人々が日本人としての誇りと自信を失っている。しかしながら世界の多くは日本と日本人に対して親愛の念を抱き、思いのほか日本に大きな期待を寄せている。

 多くの親日国中もっとも日本を親愛する国の一つがインドである。現駐日大使アフターブ・セット氏は自著(『象は痩せても象である』祥伝社)において、「日本は第二の故郷、私が親愛してやまない日本、駐日大使になったことは日本の諺をかりると“故郷に錦を飾る思い”」とまでのべている。インドの外交官にとり駐日大使になるのは、駐米大使や駐英大使になるよりも名誉なのである。どうしてこれほど日本を親愛するのか。その理由は日露戦争にある。植民地として長年イギリスに支配されていた当時のインドは、今まで知らなかった東の果ての国、有色人種の一員たる日本が世界の最強国の一つであるロシアに勝利したのをみて、驚嘆し感激して民族独立の勇気と希望を与えられた。インドの独立運動はこの時より始まる。

 世界の人々は今日の日本と日本人を見て、これが本当の日本の姿とは思っていない。一時の仮の姿とみている。真の日本は日露戦争に象徴されるもっと立派な日本、換言すると歴史的日本、伝統的日本である。そのような日本に対して世界は我々の想像を超える敬愛の念をいまだ強く抱き続けているのである。

 では、なぜ日露戦争に勝利できたか。実に不思議である。本来ならば日本がロシアに対して立上ることはありえなかった。万が一戦争が起こり得たとしても、日本が勝つことは絶対的に不可能であった。国力、軍事力の差は比較にならなかった。

 二十世紀はじめの世界は、イギリス、ロシア、フランス、ドイツ、アメリカ等の欧米列強による有色民族に対する植民地支配が頂点に達した時代である。十五世紀末のコロンブスの西インド諸島征服をはじめとして、白人国家は南北アメリカ大陸、アジア、アフリカのほとんど全てを侵略し、非西洋民族の国々を植民地や従属国として支配した。最後に残された地域が東アジアであった。圧倒的な国力、軍事力、科学技術をもつ欧米列強に対抗しうる有色民族はどこにもなかったから、本来ならば日本は決して抵抗できず立上れず、彼らの侵略、征服を受けるしかなかった。そうならなかった理由はどこにあったのか。

 当時、非西洋民族の中で真正の独立国は日本だけであった。名前だけの独立国はいくつかある。タイがそうだ。しかしタイは領土のかなりの部分をイギリスとフランスに奪い取られ、かろうじて独立国の名を保つのに精一杯であった。中東ではペルシャ(イラン)が一応独立国だったが、国土の北半分はロシア、南部がイギリスの勢力範囲とされた従属国であった。真に自立し欧米と対決し、その有力なる一国家と戦って勝つことができた国は日本以外になかった。それがいかに困難を極めた事業であったことか。実に日露戦争の勝利は非西洋唯一の例外、世界史の奇蹟であった。

 もし日本が負けていたらこの世界はどうなっていたか。あるいは二十世紀はじめ日本という国がなかったならば世界はどうなったか。アジア人の言葉を紹介しよう。平成四年(一九九二)、香港の国際会議においてマレーシアのマハティール首相はこうのべた。

 「日本の成功が東南アジア諸国に自信を与えた。日本がなければ欧米の世界支配は永久に続いていたはずだ」

 この発言を聞いた米英代表は怒って退席、一悶着を起こした。香港はこのときまだイギリスの植民地だった。日本の成功とは何か。第一が明治維新による新生、第二が日露戦争の勝利、第三が大東亜戦争である。大東亜戦争(現在学校の歴史教育では「太平洋戦争」と呼ばれているが、こちらが正しい名称)は敗北したから失敗と思う人もあるが、この戦いの目的は二つあった。

 一つはわが国の自存自衛だがこれは負けたので失敗。もう一つが名称に示されているように、東亜諸民族を欧米列強の植民地支配より解放、独立させることであった。こちらは日本の犠牲において成功した。明治維新を成就し、日露戦争に勝利し、アメリカ、イギリスを相手に大東亜戦争を敢行し、数百年間続いてきた彼らの植民地支配をついに打ち破った日本という国がこの世界になかったならば、欧米の世界支配は永久に続いていたはずだというのが、アジア諸国民の肺腑の底からの叫びである。このアジアの人々の真実の声を耳をふさいで聞こうとしなかったのが、戦後六十年間の日本であった。〈続きはブックレットをお読み下さい〉


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『日本人が知らない日本の底力』 もくじ

日本人が知らない「日本の底力」

日本の伝統は「世界の宝」

『明日への選択』編集部・編
500円+税(A5判72頁)

〔主な内容〕

私たちの中に生きている日本神話

後藤俊彦(高千穂神社宮司)

神話と現代はつながっている/神武東征はこう読むべき/「家族国家」建設の理想/日本神話は人生の拠り所でもある/伝統の力は時代を切り拓く/世界が称える日本の国柄/建国の理想に立ち返ろう

 

「匠の技」が教える日本の底力

塩野米松(作家)

自然に合わせて生きてきた日本人/木を買わず山を買え 木は生育のままに使え/弥生時代から知っていた木の使い方/一人前になるプロセスと職業倫理/働くことの意味/今の競争より未来の競争を

 

グローバリズムを超える老舗の「知恵」

野村進(ジャーナリスト、拓殖大学教授)

老舗は日本の文化/ケータイを支える日本の老舗/血族よりも継続/底流する「ものづくり」の気風/老舗を支えてきた倫理/再評価されるべき老舗の発想

 

中小企業は日本の誇り

「ものづくり」から見た日本人

橋本久義(政策研究大学院大学教授)

ものづくりはダメになっていない/日本でなければできないことがある/日本の中小企業は裾野が広い/「いい仕事をしたい」という「まごころ」/能力主義はものづくりに合わない/厳罰主義で品質を保つ中国/日本の中小企業は「世界の宝」

日本の伝統にこそ「未来性」がある

呉善花(拓殖大学教授)

「改革」韓国の悲惨な副作用/ルーツを見誤るな/最先端技術に生きる伝統/日本文化をつくった神道的自然観/アジアもヨーロッパも超える世界観/日本には大きな未来性がある




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『提案! 日本の家族政策』 もくじ

提案! 日本の家族政策

「個人」から「家族」へ政策転換を

小坂実(日本政策研究センター研究部長)
定価500円+税(A5判64頁)

〔主な内容〕

第1章
清算せまられる「家族解体」政策
東日本大震災で明らかになった「家族の絆」の重い意味

第2章
「家族解体」から「家族再生」へ
今こそ、個人を前提とした社会政策から家族を基本に据えた社会政策へ転換せよ 

第3章
三世代同居が日本を救う
育児を支え、虐待を防ぎ、高齢者を元気にする「三世代同居」の新たな可能性 

第4章
今、「無縁社会」が拡がっている
家族や地域との絆を失い、社会から孤立して生きる人々が急増している 

第5章
迫り来る「無子社会」の脅威
もはや「少子化社会」どころではない!  

補遺
家族に「グローバル・スタンダード」はない
エマニュエル・トッド『世界の多様性―家族構造と近代性』を読む


はしがき

 日本では近年、急激な少子高齢化が進展する一方、家族の崩壊や若者の非婚・晩婚化が進み、最近は単身世帯の急増や「無縁社会」などと言われる問題まで指摘されるようになってきた。いずれも家族という「生命再生産」の基盤に赤信号がともっていることを警告するものである。

 今さら指摘するまでもなく、家族という最小の共同体こそは、個人が生まれ育つための基盤であり、健全な社会と活力ある経済を支える土台であり、さらに国家存続のための基礎でもある。家族の弱体化や崩壊が進めば、国家は外敵を待たずとも、いずれ内側から瓦解する。今ほど家族の再生・強化に向けた本格的な政策が求められている時もない。

 ところが、今の日本では、社会の制度や仕組みを「家族」から「個人」に転換しようとする逆向きのきわめて短絡的で危険な動きが起きている。夫婦別姓導入や配偶者控除廃止などの動きはその一環に過ぎない。

 この「家族解体」路線は、民主党政権の登場によって一段と強められ、一斉開花の時期を今か今かと待ち構えている。本書に収められた論稿は、そうした動きに対する、筆者なりの問題提起であり、また家族の再生・強化に向けたささやかな提言でもある。




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2011年12月7日(水曜日)

「開国論お化け」に騙されるな

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「開国論お化け」に騙されるな

 TPPをめぐる議論で、ありそうもない問題をいかにもあるかのごとく論ずる議論を「TPPお化け」と呼ぶのだそうだ。しかし、筆者には逆にありもしない可能性をいかにもそれがあるかのごとく論ずる「開国論お化け」も結構いるような気がしてならない。

 例えば、日本農業にとって、TPPはむしろ再生のチャンスだとする議論である。この市場開放を機に、日本の農業を大規模化へと一気に切り替えていけば、活力ある日本の農業は十分に外国と勝負していける、とする議論だ。

 むろん、筆者はそうした可能性を一切あり得ない、とまで否定しようというわけではない。しかし、これは余りにも無責任な議論ではないか、と指摘したいのだ。

 まず現実的な問題として、実際にどれだけの農家にとり、ここにいうような大規模化が可能か、という問題である。一部に理想的な形で大規模化できる農家がいるとしても、恐らく大多数の農家は努力してもこのような形にまでは至るまい。農地を増やせたとしても、その農地は恐らく小規模なままあちこちに分散したままだろうし、ましてや中山間地ではそうした大規模化自体が地形的に不可能という他ない。ということは、かなりの農家は本格的に大規模化できないまま留まるということになる。かかる農家は切り捨て、大規模化できた農家だけでやっていけ、ということなのだろうか。

 と同時に、この大規模化自身の問題である。政府は現在の平均規模の十倍から二十倍程度を考えているようだが、仮にそれが可能となったとしても、それでも米国などの規模には遠く及ぶまい。それでも本当に勝負できると考えているのか、ということなのだ。

 価格的に及ばない部分は税金で所得補填すればよい、と識者たちは気楽にいう。しかし、ならばそのためにはどれだけの予算が必要で、財源はどこに求めるのか。そんな試算がこれまで示されたとは聞かないし、そもそも基礎年金の国庫負担分すら恒久財源を見つけるのが困難な現状の中で、そんな財源は存在するのだろうか。

 それだけではない。日本の場合は価格は高くても品質で勝負できる、とやはりこれらの識者たちは指摘する。しかし、品質本位で購入しようとする人は確かにいるとしても、それは全国民の果たしてどれだけの割合を占めるかが実は問題ではないか。もしそれが、例えば五〇%だとしたら、後の五〇%は残念ながら価格本意で選ぶという人々になるからだ。とすれば、品質で勝負の日本農業は、国民の五〇%しか相手にできない、ということになるのではないか。

 いや、国民の品質志向はもっとパーセンテージが高いという識者もいよう。しかし、外食・中食業の現状を考えてみてほしい。今や三百円を割る弁当だの二百円台の牛丼だの、という時代なのである。そんな業者がそれでも品質志向で国産米を選ぶなどということは考えられるだろうか。とすれば、品質重視で国産米を選べるのはせいぜい個人消費の場合だけで、外食や中食の場合は圧倒的に安い米で占められるということだ。

 とすれば、どうやって品質で勝負するというのだろうか。本気でそう考えるのであれば、まずはこの日本の「安売り競争」の流れを止めることの方が先決だと筆者は考えるが、しかしこの人たちは一方で品質本意をいいながら、もう一方ではこの安売りに更に拍車をかける輸入米の流入に門戸を開け、と叫ぶ倒錯ぶりなのである。

 最後にもう一点、農業は生産性だけでは論じられないという問題もある。農業には食料生産と同時に国土保全や村落維持という問題もあり、それを無視した議論は無責任という他ないからだ。大規模化すればやれる、などという「お化け」に騙されてはならない。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成23年12月号〉


『明日への選択』12月号 表紙と目次

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『明日への選択』12月号(最新号) 表紙

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『明日への選択』12月号目次

―interview―

☆民主党政権下で進む「静かな革命」
 八木秀次(高崎経済大学教授)
 ・日本をズタズタにした民主党政権2年間の思想的総括。野田政権になっても「構造改革派型革命」を意図する民主党の体質は何ら変わらない。みんなが気付いた時は、日本はアウトだ!

☆自治基本条例「阻止」へ動き出した自民党
 福冨健一(自民党政務調査会事務副部長)
 ・反響を呼ぶ政策パンフレット『チョット待て!! “自治基本条例”』

 

―Lecture abstract―

☆大震災は日本人に何を問いかけたか
 国家なき市民社会の幻想を超えて
 渡辺利夫(拓殖大学学長)
 ・「尖閣事件は日本の国民が『国家』というものに目覚める一つの転換点になったのではないかと思いますが、東日本大震災はより大きな意味で、『国家と共同体』の重要性を日本の国民に悟らせた重大な出来事だったのではないでしょうか」――日本政策研究センター第23回全国研修会における講演録。

 

―opinion―

☆ワシントン会議の教訓からTPPを考える
 ・懸案だったTPPは「参加に向けて関係国との協議」に入ることとなった。しかしながら、「アジアの成長を取り込む」「平成の開国」などという能天気な認識は、あのワシントン会議を「平和と国際協調のための協議の場」と捉えた当時の日本と二重写しに見える。TPPは結構づくめの「成長のための枠組み」などではあり得ない。

☆再生可能エネルギー買取法が孕む危険
 ・再エネ大量導入は原発代替にはならず、国富が中国に流出するだけに終わるのではあるまいか。

☆子育て家庭をいかにして支えて行くのか
 ・出生率回復へ向け、「子ども手当」の功罪を検証し、総合的な家族政策への転換を考える。

☆「開国論お化け」に騙されるな

☆「幸せの国」からも国土を奪う中国

 

―column―

☆一刀論断
 江藤淳を想う
 ・現代日本知識人の条件
 先崎彰容(大学教員)

☆魚がみた日本近代(第12回)
 史上最大の水商売(その1)
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第12回)
 松江城 山陰を代表する現存天守を擁する名城
 濱口和久

☆深層リポート・在日中国人は今……(第19回)
 妻を助けられない!
 余凡

☆知っておいてためになる話
 皇太子同妃両殿下の被災地御訪問を仰ぐ

☆知っておいてためになる話
 ・エアシーバトルコンセプトって何?
 ・「日本が叩かれる」ことが前提?
 ・本当に問われる日本の防衛努力

☆百題百話
 ・「日本のちちとははにあえてうれしかったです」
 ・ブータン国王の素晴らしい国会演説

☆地方議会政策情報
 ・3県1市 「自衛隊等に感謝する決議」を可決
 ・米子市 自治基本条例案、当面提案見送りに
 ・山形県 県職員の服務条例を改正、教職員の宣誓を新たに追加

 

―history―

☆歴史の指標 山岡鉄舟(三)
 命もいらぬ名もいらぬ真の武士
 岡田幹彦(日本政策研究センター主任研究員)


年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

お申し込みは、日本政策研究センター(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。


2011年11月29日(火曜日)

「女性宮家」論議に潜む大問題

「女性宮家」論議に潜む大問題

 11月25日の読売新聞が、「羽毛田宮内庁長官が政府に女性宮家創設の検討を要請した」と報じて以来、「女性宮家」について各新聞の論議が始まっている。

 「女性宮家」の創設は、女性皇族が結婚しても皇籍を離れなくてもよいように皇室典範を改正し、皇族の減少を防ごうという目的だとされている。将来、現在の皇位継承者が皇位にお即きになられた際、天皇陛下のご公務をお支えする皇族があまりに少ないのは問題があるから、というのである。

 しかし、女性皇族がご結婚され「女性宮家」を創設された場合、その宮家とはいかなる宮家となるのだろうか。とりわけ、その宮家の次世代が皇位継承権を持つのかどうかは大問題となる。

 もし、皇位継承と無関係な宮家を創るというのであれば、現在の皇族とは別の種類の皇族を作ることとなるが、そうしたことが果たして可能なのだろうか。

 一方、女性宮家の次世代が皇位継承権者となるというのであれば、女性宮家創設は「女系天皇」への道をひらくこととなる。

 女性宮家創設が安定した皇位継承に寄与することが(仮に百歩譲って)もしあるとすれば、女性皇族が皇統につながる男系の子孫とご結婚されて「女性宮家」が創設され、その次世代の方が皇位継承権者となられる、という場合だけではあるまいか(むろん、このこと自体を認めるのかどうか議論しなければならないが)。

 そうした意味で、「女性宮家」創設の論議が、「男系」継承維持の改めての確認なしに進められるとしたら、将来の「女系天皇」容認の布石ともなりかねない危うさを含んでいる。「女性宮家」創設には大きな問題がひそんでいる。(日本政策研究センター メール・ネットワーク 11月29日付)


2011年11月10日(木曜日)

中国漁船への罰金はたったの30万円

中国漁船への罰金はたったの30万円

 11月6日、長崎県五島列島の鳥島の領海内に侵入した2隻の中国漁船を海上保安庁の巡視船が発見。停船命令に従わず逃走したため、このうち1隻を拿捕し、中国人船長を逮捕した。

 この事件を知って「今回は釈放しないでください」という電話が海上保安庁に寄せられているというが(産経新聞)、今回は昨年の尖閣事件とは違って、船長は略式起訴となり、罰金を払うことになると報じられている。

 しかし、釈然としない話である。略式起訴・罰金といっても罪名は「立入検査忌避」という漁業法違反で、罰金は最高でも30万円。略式起訴とは言っても、30万円払えば人も漁船も放免されるということでもある。

 ちなみに、今年この海域の北側にある韓国・済州島の排他的経済水域(EEZ)で韓国海洋警察に捕まった中国漁船は、釈放のために1隻あたり1100万円を韓国側に支払わされている。

 一方、昨年1月、今回と同じ海域で、日本の排他的経済水域で違法操業していた中国漁船が拿捕されたが、その時の罰金は430万円。今回は、領海に侵入し停船命令を拒んでもたった30万円。これでは中国漁船は何度でもやって来るに違いない。

 日本は、領海での外国人による漁業行為について、一般の漁業法とは別に「外国人漁業の規制に関する法律」(外国人漁業法)を定めて禁止している。この外国人漁業法では、実際に魚を捕る行為だけでなくその準備行為も禁止している。

 また、罰則が「三年以下の懲役若しくは四百万円以下の罰金」と重いだけでなく、違反した船や漁具の没収もできる。これなら領海侵入に対する抑止効果もあると思うのだが、実は、この外国人漁業法は一度も適用されたことがない。日本がどれほど領海や海洋権益について「ボケ」ているかが分かる。(日本政策研究センター メール・ネットワーク11月9日付)


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2011年11月7日(月曜日)

「不健全な社会」が「歪んだ経済」を生む

「不健全な社会」が「歪んだ経済」を生む

 中国で起こった「女児ひき逃げ事件」がインターネット上で話題になっている。十月十三日、中国の広東省仏山市で二歳の女の子が車にひき逃げされたのだが、その直後に通りかかった十八人が助けようとせず、結局は死亡してしまうという何ともむごい事件である。ネット上にはその映像が流れているが、見れば寒気がする。

 さすがの中国でもこの事件を巡って社会道徳の崩壊を嘆く声があがり、中国共産党の機関紙・人民日報も「文明社会の公民の責任にも関わる問題だ」と道徳意識の向上を求めた。しかし、その一方で関わらない方がよいという意見もあるのだというのだから驚かされる。

 五年前に南京市のバス停で転倒してけがをしたおばあさんを若い男性が善意で病院に連れて行ったところ、逆にそのおばあさんが「この男に突き落とされて骨折した」と主張され、損害賠償を払わされるという事件があった。だから、「善意を逆手にとられてしまうような社会だから関わらない方がましだ」というのである。今回の事件とまったく逆のケースと言えるが、二つの事件からは共通して中国において社会的信頼、人と人との信頼関係が決定的に崩壊していることがうかがえる。

 「社会的信頼」と言えば、十数年前に米国の政治学者フランシス・フクヤマが書いた『トラスト(信頼)』(邦訳書名は『「信」なくば立たず』)を思い起こす。記者の勝手な理解だが、そのなかでフクヤマは、どの国の経済活動もその根底には独自の「道徳社会」「社会的信頼」というものがあり、それが経済活動を左右すると書いている。

 フクヤマは「クリーニング屋の経営から最先端のマイクロプロセッサーの生産に至るまで、実質的にすべての経済活動は、個人ではなく、高度な社会的協調を必要とする組織によって運営されている」と言い、「しかし、この組織を形成する能力は、どんな道徳社会がそこに存在するのか、つまり、道徳をめぐる暗黙のルール、あるいは、社会的信頼の基盤をなす規範がどのようなものであるかによって左右される」と指摘した。

 つまり、経済活動のパフォーマンスは、その国の「道徳社会」や「社会的信頼の基盤をなす規範」のあり方によって決まるというのである。言葉を換えて言えば、「不健全な社会」の上には「歪んだ経済」しかできないということでもある。

 中国は日本を抜いて世界第二の経済大国となった。しかし、瀕死の子どもを見ても、助ければ逆に訴えられるかもしれないから知らぬ振りをするような、信頼が根底から崩壊した社会のうえに実現した経済とは一体いかなるものなのか。そこにあるのは、決して「高度な社会的協調を必要とする組織によって運営されている」まっとうな経済ではなく、権力などを利用して自己の利益だけを追求した一部の大金持ちとそこから排除された無数の労働者や農民がうごめく無秩序経済と言えるのではあるまいか。

 一方、その経済活動が経済的利益の最大化だけを目的とすれば、経済活動の基盤となる社会自体を壊す危険性があることも指摘しなければならない。

 わが国では、いまTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を巡る論議がピークを迎えている。そこで強調されているのは、もっぱら関税などの規制を外すという市場経済のメカニズムである。その一方、市場経済がフクヤマの言う「社会基盤」やそれを壊す危険性についてはあまり論じられていない。経済活動の眼目は経済的利益の追求にあるのだが、しかし、中国のように健全な社会がなければ経済成長は空しいものとなるということを忘れてならないと思う。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成23年11月号〉


『明日への選択』11月号 表紙と目次

カテゴリー:

『明日への選択』11月号(最新号) 表紙

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『明日への選択』11月号目次

―interview―

☆世界経済危機の根本原因を考える
 東谷暁(ジャーナリスト)
 ・今の経済論はグローバリズム礼賛一色で、リスクと不確実性を最終的に引き受けるべき国家という存在が、すっぽり抜け落ちている。事実、いま主流となっている経済学にはそもそも、リスクと不確実性という問題設定自体が欠落している。

 

―symposium―

☆迷走する政治に私はこう斬り込む
 衛藤晟一(参議院議員)、下村博文(衆議院議員)、義家弘介(衆議院議員)、萩生田光一(前衆議院議員)
 ・まる2時間、4人の自民党政治家による白熱した討論を誌上で再現!

 

―report―

東北被災地視察報告・「復興の槌音」はいつ聞けるのか
 ・テレビや新聞を見ていると、復旧・復興への動きが進みつつあるかのような印象を受けるが、実際には瓦礫が片付けられただけで、ほとんど何も進んでいない現実があった。震災七カ月後の被災地リポート。

 

―opinion―

☆小宮山大臣!「家族を潰す」つもりですか?
 ・税と社会保障制度の「世帯単位」見直し論議は、「専業主婦潰し」「家族潰し」のジェンダーフリー運動だ。

☆慰安婦問題から見えてくる民主党の「闇」
 ・慰安婦問題をめぐっては民主党と韓国の運動団体や北朝鮮との間に、何とも「胡散臭い」関係がある。新たな基金創設をほのめかした前原発言、日韓協定に関わる仙谷発言、さらには昨年八月の「菅謝罪談話」は、歴史認識問題というより、こうした「胡散臭い」つながりという民主党の「闇」のなかで考えた方がすっきり理解できるようにも思えるのだが……。

☆「磐」の上に国家を立てよう(続)――「明治憲法起草過程」に学ぶ国家建設の基本姿勢
 ・この国を「沙の上」ならぬ「磐の上に建てられたる家」となすためには、歴史に深く根ざすことが不可欠だ。なによりも「国家の永遠」を思い、盤石なる国家の建設を考えた明治憲法の起草過程に学ぶ。

☆あの復興構想会議とは何だったのか

☆「不健全な社会」が「歪んだ経済」を生む

 

―column―

☆一刀論断
 被災神社が直面する困難
 ・大震災・神社と祭りこそ郷土再生のカギだが……
 斎藤吉久(宗教ジャーナリスト)

☆魚がみた日本近代(第11回)
 日本人になれなかった富三郎(その2)
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第11回)
 浜松城 天下人・家康を育て、多くの幕府重職を輩出した「出世城」
 濱口和久

☆深層リポート・在日中国人は今……(第18回)
 「事故を起こしたら殺した方が安い」?
 余凡

☆世相クローズアップ
 「英語ができてもバカはバカ」

☆百題百話
 ・「無力感にとらわれがちになる自分と戦うところから始めねばなりませんでした」
 ・「私たちの国の実相を、誇らしく感じました」
 ・「ミクロネシアは世界一の親日国」

☆地方議会政策情報
 ・朝鮮学校無償化問題・十九道県議会で反対意見書等を採択
 ・京都府議会・廃棄命令を定めた児童ポルノ規制条例を制定
 ・議会基本条例は慎重に

 

―history―

岡田幹彦☆歴史の指標 山岡鉄舟(二) 江戸開城前夜・西郷との命がけの談判




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2011年11月1日(火曜日)

あの復興構想会議とは何だったのか

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あの復興構想会議とは何だったのか

 東日本大震災から七カ月の十月十一日から十三日、宮城・岩手の被災地を再び訪れた。前回の訪問から丁度五カ月、果たして被災地の復旧はどの程度進んだか、というのが今回の訪問の目的だった。しかし、実際に現地を視察してみての印象は、がれきは確かに整理されたとはいうものの、復興どころか本格的復旧に向けての動きもまだほとんど始まっていない、というのが実態だった。どうしてまだこんなレベルなのか、われわれなりに関係者に色々取材してみての感触では、要は政治における対応の遅れ、その一点に尽きるように思われた。日経のコラムの見出しに「復興邪魔する『政治ごっこ』」というのがあったが(10月2日)、まさにそれである。

 具体的な話は本号22頁以下の現地レポートに譲るが、要は国家としての全体方針が固まらなければ県も市町村も動けず、さらにいえば被災者たちもどうにも動けない、ということなのである。

 例えば陸前高田市では、国が防潮堤の高さを決めてくれなければ、市としては二次堤防の役割をもたせることとなる町の基幹道路を設定するコースを決めることができず、それが決まらなければ最も基本的なゾーニングもできず、それゆえに市の復興プランを今日まで正式決定できなかった、という話を聞かされた。更にいえば、町の全体像が描かれなければ、JRも新たな線路と駅の設置場所を決定できないのだという。

 そんな説明を受けつつ、筆者としてはまずあの復興構想会議というのは一体何だったのか、という怒りにも似た疑問をもった。率直にいえば、あの報告書は被災地関係者にとっては何の意味ももたず、われわれも取材中、その報告書に対する何らの言及も耳にすることはなかったからだ。とすれば、四月から六月にかけての約三カ月間、政治は最も大切な時間をいたずらに「復興構想ごっこ」のために浪費したということなのである。「創造的な復興」だとか「高台のエコタウン」だとか、われわれは夢のような話を毎日のように聞かされたが、今やそんなものは誰も話題にさえしないのだ。

 仙台市では、被災した農家の方々より現状に対する感想を聞いた。しかし、五カ月前に取材した時は被災のショックにもかかわらず、これでこれまでの農業のあり方が改革されることになるのであれば、希望をもってそれには協力したいし、今後頑張りたい、とむしろ夢をさえ語っておられたその方々が、今回は絶望的とはいわないものの、かなり深刻な戸惑いに直面しておられることに、強いショックを覚えたのである。というのも、未だにこうした方々には被災農地がどうなるのか、農業が続けられるのかどうなのかさえ、何らの見通しももたらされていないという話だったからだ。

 新聞などを見ていると、政府はTPP参加を見据え、「農業再生の基本方針」と称し、「農山漁村の豊富な資源を活用し、6次産業化を推進することで付加価値を向上。雇用と所得を生み出し、農林漁業をさらに成長産業化する」だの「平地で20〜30如中山間地では10〜20任竜模の経営体が大宗を占める構造をめざす」だのという計画を決めたらしい。しかし、被災地さえ未だにこのような状況に放置されているのに、一体どうやってそんな「農業再生」が可能なのかと思わざるを得なかった。

 気仙沼市では、満潮になると未だに水没になる無惨な市街地を見た。全体的にこの土地を嵩上げするには約二年かかるという。関係者は果たしてその間、この町の水産業者がそれを待っていられるか、と苛立ちを隠さなかった。しかし、その嵩上げ計画すらまだ正式には未決定なのである。

 政府は「机上の議論」を即刻やめ、この現実に向き合うべきだ。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成23年11月号〉


2011年10月5日(水曜日)

野田政権の「危ない政策」に要注意

野田政権の「危ない政策」に要注意

 野田首相が就任してから1カ月。首相は「あえて言えば適材適所内閣だ」と言ったが、「防衛は素人」の一川防衛相、マルチ商法を取り締まるのがマルチ商法を擁護していた山岡消費者担当相。中川文科相は「パチンコ屋に託児所をつくるのが少子化対策」と言っていた人物。「適材適所内閣」は悪い冗談でしかない。

 まさに「つっこみどころ」だらけの内閣だが、同時に、これまで阻止されてきた「危ない法案」が再浮上する危険性にも目を向けたい。

 その一つは、いわゆる「人権救済法案」。所管大臣である平岡法相は、来年の通常国会に法案を提出したいと張り切っている。この平岡法相は、こうした人権絡みの問題を推進してきた「リベラルの会」のメンバーで、かつて朝鮮大学校の記念行事に政治家でただ一人参加したという人物。

  野田首相は、こんな人物を法相に任命し、その際「人権救済法案」の推進を指示したというのだから、「保守政治家」の「看板に偽りあり」である。

 もう一つは家族解体政策である。過激なフェミニストであり熱心な夫婦別姓推進派として知られる小宮山厚労相は、早速、現在の年金制度で主婦に適用される「第三号被保険者」の見直しを言いはじめ、所得税の配偶者控除の廃止という所管外の主張も展開している。

 その狙いは「世帯単位から、もっと個人単位にする」ことにあると厚労相自身が明言しているが、要するに家族を守る制度を壊していくということに他ならない。

 こんな厚労相がいて、民法を所管するのが先の平岡法相というのだから、夫婦別姓法案が提出される流れが出てくる可能性もある。

 この他にも、文科省は日教組から支援をうける中川文科相、日教組バリバリの神本文科政務官という布陣。教育政策の「日教組化」も憂慮される。

 いずれにしても、野田政権下での「危ない政策」に要注意である。(日本政策研究センター メール・ネットワーク10月5日付)


『明日への選択』10月号 表紙と目次

カテゴリー:
『明日への選択』10月号表紙

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『明日への選択』10月号目次

―interview―

☆外国人はなぜ「日本」を賞賛するのか
 黄文雄(評論家)
 ・東日本大震災では、世界最大級の地震・津波の惨禍を被ったにもかかわらず、日本人が冷静さを失うことなく秩序を保ち、世界中から大きな驚きをもって受け止められた。なぜ世界はそのように驚いたのか。日本人の国民性や日本の社会構造は、世界の中でどのような特色があるのか。

☆社会保障制度改革は家族の視点で
 安宅川佳之(日本福祉大学客員教授)
 ・急激な少子高齢化を背景に、年金、医療、介護などの社会保障費が毎年1兆円ほど増え続けている。このままでは社会保障制度の破綻は避けられない。だが、政府の税と社会保障の一体改革の議論などでは対症療法に追われ、問題の本質が置き去りにされている。本格的な少子化対策、家族政策のあり方を考える。

 

―opinion―

☆「磐」の上に国家を立てよう
 ・国家の地盤・土台・骨格――「磐」(いわ)を一顧だにしない民主党政権により、この2年わが国は「取り返しのつかない失態」を演じた。「沙」(すな)の上に建てられたる家は、かくのごとく簡単に倒れる。今われわれに求められるのは「磐」に家を建てることであり、確固たる基礎・基盤をもつ国家観の再興だ。

☆野田首相は本当に「保守」なのか
 ・落ち着いた人柄で、保守派からも期待される野田首相。だが、「日教組議員」を党と内閣の要職につけた人事はむろん、調べてみると確固たる思想内容があるわけでもない。野田佳彦という政治家は、実のところ内実空虚な自称「保守」ではないのか。

☆教科書問題の次なる課題を考える
 ・育鵬社版教科書は躍進したが、一方で「歴史への愛情」も「国民としての自覚」も説かない教科書や不当な「不採択運動」がまかり通っている。その現実の背景に何を読み取るべきなのか。

☆ムダな議論で復興の機を逸するな

☆もう戦争は始まっている?

 

―report―

 崘晴般映顱廚子供を救う
 ・豊かな自然と田舎の人々のあたたかい心にふれる中で、都会の子供たちがガラリと変わる「農家民泊」。教育現場では、「平和教育」と称して広島、長崎、沖縄など戦争の悲惨さを植え付けんがための修学旅行が多いと聞くが、これでは子供の「心の荒廃」に追い討ちをかけるだけ。修学旅行の根本的転換を提起するとともに、「農家民泊」の実際を現地レポート。

◆峺鯲」こそ地域活性化のカギ
 田渕正人(びわ湖・近江路観光圏協議会近江屋ツアーセンター所長)
 ・農家民泊は、教育的側面のみならず、地域活性化の起爆剤となる可能性も秘めている。農家民泊の魅力をその「仕掛け人」に聞く。

 

―column―

☆一刀論断
 民主党では保守内閣ができないこれだけの理由
 三輪和雄(日本世論の会会長)

☆魚がみた日本近代(第10回)
 日本人になれなかった富三郎(その1)
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第10回)
 宇都宮城 将軍秀忠暗殺計画の真相
 濱口和久

☆深層リポート・在日中国人は今……(第17回)
 中国新世代「80后」とは?
 余凡

☆世相クローズアップ
 あまりに軽い、軽すぎる

☆百題百話
 ・皇后陛下と「御養蚕」
 ・「職員任せと思っていたが、それは違った」
 ・「繭はいつ出来ますか」
 ・「すぐよこせ」

☆地方議会政策情報
 ・自治基本条例・自民党が警鐘を鳴らすパンフを作成
 ・東京都港区・民間に食料備蓄求める防災基本条例案

 

―history―

岡田幹彦☆歴史の指標 山岡鉄舟(一) 剣と禅による人間修行


年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

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2011年10月3日(月曜日)

ムダな議論で復興の機を逸するな

ムダな議論で復興の機を逸するな

 四日間で閉じられることとなっていた国会が延長となった。野田内閣の姿勢を徹底的に問い質すためにも当然のことだと思うが、しかしなぜか被災地復興のための第三次補正予算案は出てこないのだという。筆者には細かい背景の事情はわからないが、率直にいって何をやっているのだと思う。

 それだけではない。十一兆円を超す復興予算の財源として、政府は所得税を中心とした増税ということを考えているようだが、これについては与党内にも強い抵抗があり、なかなか結論とはいかないらしい。ということは、これがいずれ国会提出となっても、今度は野党の反対ですんなり成立とはいかない場合もまたあり得るわけで、そうなれば復興はますます遅れてしまうことになろう。

 日経夕刊の「十字路」欄に、吉田春樹氏の以下のような一文が載っていた(9・21夕)。

 「復興に関しては何よりも夢の大きさとスピードが勝負。国としては一日も早く構想を固め、具体的な復興に必要なカネを用意しなければならない。税収がどうのと議論する間はないはずである。……復興とは日本の未来をどう築くかという大きな目標と同時に、何万人という全生活基盤を失った被災者たちが明日からどう生きるかという問題を抱えているのだ」

 この指摘には筆者も百%同感だといってよい。「税収がどうのと議論する間はない」との指摘は確かに過激だが、こういうものはタイミングが勝負で、それを失えば復興の勢いはどんどん削がれていくからだ。そんな所にいかに巨大な予算が下りてこようとも、その時はもはや経済効果は半減しており、復興事業そのものが壮大な無駄づかいになりかねない。それでも税収なのか、ということだ。

 「政府が構想を固め、自治体がこれをどんどん実現していけば、震災地の随所から建築の音が響くようになる。そこには間違いなく大量の雇用が発生し、放射性物質の除染が進めば、子供連れ家族も安心して戻ってくる。/大切なことはこれ自体が生産活動であり、ここへの資金投下は投資であることだ」(同)

 吉田氏はこうもいうが、この当たり前な発想がどうして実行に移されないのだろう。高台への町ぐるみの移転だの、食糧基地構想だの、自然エネルギーの町づくりだの、と復興構想会議での議論は盛り上がった。しかし、一体あれはどうなったのだろうか。逆に新聞などを通じて今われわれに伝わってくる情報は、震災後、むしろ被災地の人口流出は止まらず、農漁業者は再起を諦め、集落が次々消え始めているといった話だ。

 むろん、働き口がなければ誰でも生きてはいけないし、将来への夢をもてなくなれば誰だってその仕事から撤退していくしか道はない。その意味では、この流れは当然の流れでもあるのだが、だからこそ政府の機を逸せぬ果断な対応が必要なのではなかろうか。

 先日の新聞にも「震災のがれき処理滞る」という記事が載っていた。震災で発生したがれきの中の鉄スクラップや廃木材を有効利用するといった方針が当初掲げられていたが、処理コストが上昇するとともに、その売り先がなかなか見つからない現実に直面しているというのだ。このままではがれき処理が遅れるだけでなく、資源の有効利用という将来プランも潰えかねない現状だという。これを放置していてよいのだろうか。

 もう一点つけ加えれば、予算が土木面ばかりに向き、産業再生の方には向いていないとの指摘もある。復興が将来への投資であるのなら、もっとこうした面での政府の対応も求められよう。にもかかわらず、そんな議論が行われているという話もまた聞かれない。

 復興はスピードが勝負だ。無駄に議論している場合ではない。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成23年10月号〉


もう戦争は始まっている?

もう戦争は始まっている?

 数年前から、「サイバー攻撃」「サイバー戦争」という言葉を目にすることが多くなった。サイバーとはコンピュータやインターネットのことで、それらを攻撃して破壊したり混乱させたりするというのがサイバー攻撃である。

 個人のパソコンには必ずウイルス対策ソフトというのが今や常識となったが、ここでいうサイバー攻撃はそんなレベルの話ではない。最近も三菱重工業など防衛産業のサーバーやパソコンが外部からの侵入を受け、コンピュータウイルスに感染していたことが発覚した。そのなかには潜水艦や護衛艦、原子力プラントを建造する工場も含まれ、侵入したウイルスはパソコンを外部から操作し、情報を外部に発信する危険なものだったという。まだ情報の流出は確認されていないというが、素人の記者ですらそんな機密が流出すれば日本の安全保障が危うくなることぐらいは理解できる。また日本の官庁のシステムが攻撃を受けることも珍しくない。警察庁のサイトは二年続けて攻撃をうけ、長時間にわたって閲覧不能となっている。

 しかし、世界に目を向けると、様相は日本とは格段に違う。既に「サイバー戦争」が始まっているというのが欧米の常識だというのである。米国防総省は外国政府からのサイバー攻撃に対して武力による報復も辞さないとの新方針を打ち出したという(読売新聞・六月二日)。つまり、アメリカは外国政府からのサイバー攻撃を「戦争行為」とみなし、米軍による武力行使も辞さないというのである。

 何を大げさなと思うのは、日本人の「平和ボケ」というものであろう。実際、米国だけでなく、ヨーロッパでも韓国でも、政府の公共システムや原発や電力配電網などの社会インフラ、さらには軍のシステムなどを狙ったサイバー攻撃が急増している。そうした攻撃がなされれば、例えば戦争でミサイル攻撃を受けたのと変わらぬ壊滅的打撃を受ける可能性があるからである。

 また、実際の軍事行動は、まずサイバー攻撃によって相手国のシステム、とりわけ軍のシステムを叩くことから始まるというのが現代戦の常識でもある。ある時点までは、相手の情報を盗むだけのサイバー攻撃が、いつ何時「戦争行為」に変わってもおかしくないということである。こう考えると、サイバー攻撃を「戦争行為」と見なすことも決して不思議ではない。

 では、こうした「サイバー攻撃」を行っている犯人は誰かということになるのだが、その多くが中国によるものというのが世界の定説と言えよう。発信源の特定は技術的に難しいらしいのだが、昨年九月と今年七月、警察庁のサイトが攻撃された事件ではともに発信元の九割が中国だったことはよく知られている。フランスでも昨年末、財務省のシステムが大規模なサイバー攻撃を受け、機密情報が中国などへ流出した可能性が指摘されている。古森義久氏が紹介している米国の民間研究機関の報告によれば、昨年、米国やその他諸国の各種機関に仕掛けられたサイバー攻撃のうち最大の発信源は、海南島に拠点を置く人民解放軍部隊だったという(SAPIO・10月5日号)。「サイバー攻撃に関する限り、米中戦争はもう始まりました」というのが米国の専門家の認識だとも古森義久氏は伝えている(同)。

 中国では、数万人と言われるサイバー部隊が活動していると言われている。むろん、中国国内でメールなどを検閲したり、外国との接触を監視・封殺するためである。その一方で軍部隊は堂々と日本や米国に対するサイバー攻撃を仕掛けているというのだから、壁の向こうから「戦争行為」を仕掛けているようなものである。独裁国家の恐ろしさを感じないわけにはいかない。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成23年10月号〉


2011年9月14日(水曜日)

日本人と中国人

日本人と中国人

 

 中国の新幹線事故は、日本人に中国とはこういう国かという強い印象を残した。前後が逆転していた走行順序、機能しなかった制御システム……ここまではそんなことがあるのかなと思って見ていたが、事故車両を高架から落とし、重機で壊して穴を掘って埋めた映像を見て驚かなかった日本人はいないだろう。そのうえ鉄道当局者が「事故処理をするうえで邪魔だった穴に入れただけで、埋めたわけではない」と弁解するのを聞いて、中国人は証拠が目の前にあっても堂々とウソを言える人たちなのだと、こう思ったに違いない。

 ただ弊誌はこうした一連の事故対応を連想させるような記事をかつて載せている。
 「一九八九年に、広東省の東莞市で、三階建てのテナントビルが丸ごと倒壊するという大きな事故が起きました。ところが、事故の直後に現地幹部がすぐに現場を封鎖し、関係者以外の人間の立ち入りを厳禁しました。その上、一晩で現場が綺麗に片付けられ、死亡者数も公表されませんでした」(平成十九年六月号)

 これは広東省で建築物の構造設計や調査を担当していた夏一凡さんの話で、むろんビルの崩壊は手抜き工事のためである。信じられないという顔をしていたら、翌日には現場は更地になって何もなかったかのようだったと夏さんが言っていたことを憶えている。ビル崩壊をなかったことにするくらいだから、事故車両を埋めることも充分にあり得る話ではある。

 また、こんな話もある。元通訳捜査官で、逮捕された中国人の取り調べに通訳として立ち会った坂東忠信氏の話である。

 「中国人の場合は、万引きの現行犯で逮捕したとしても絶対に認めない。警備員が取り押さえて、現に手に盗んだ物を持っていても、『俺は盗んでいない』」(平成二十二年十一月号)

 手に盗んだものを持っていても否認する万引き犯の弁と、先程の当局者の弁解とはどこか共通するものを感じる。

 それに較べて、わが民族のなんと正直で律儀なことか。三月十一日に地震が起こったとき東北での話である。

 あるファミリーレストランはほぼ満席の状態だった。最初の大きな揺れの後、店ではお客さんを外に避難させたのだが、ほとんどの客はその後の余震の合間を見て店に戻り会計を済ませ、そのまま帰宅したりして地震直後に戻らなかった客も、翌日になってその店に足を運び、食事代金を支払ったという。

 単純な比較は慎むべきだろうが、ヨーロッパでは国民性は鉄道を見れば分かると言われるくらいだから、新幹線で比較すれば少しは説得力も出て来よう。

 今ではほとんどの国民が知らないが、新幹線はわが国が独自に創り上げた高速鉄道システムである。戦前の弾丸列車構想を受け継ぎ、各車両がモーターで動く「電車方式」を高速列車では世界で初めて採用し、車体の振動制御、自動列車停止装置なども世界で初めて実用化した。むろん、苦労に苦労を重ねてのことである。その後も営々と保守と改善を重ね、今では数分間隔で列車が走り、風雨・地震以外では遅れることもあまりない。開業から四十七年間、大きな事故はまだない。

 一方、中国は、カネを出して外国から車両を買い、そのコピーを作った。運行システムも外国のものをそのまま導入した。それを独自技術と称して宣伝し、あっという間に高速鉄道を作ったのだが、早々に大事故を起こし、故障、トラブルは日常的だという。

 両者の違いは明らかだろう。しかし、少なくとも日本人はもっと本来持っている国民性の素晴らしさを誇りに思ってよいと思うのである。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成23年9月号〉


2011年9月9日(金曜日)

八重山での不法な「ごね得」を許すな

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育鵬社版公民教科書の逆転不採択

八重山での不法な「ごね得」を許すな

 沖縄県八重山採択地区(石垣市、竹富町、与那国町)では、育鵬社版公民教科書が採択された。これに竹富町が反対し沖縄県教委が介入して問題となっていたが、昨日8日、県教委が主導して教育委員全員協議会が開かれ、その結果、育鵬社版公民教科書が不採択とされた。

 これは教科書採択に関する手続きを無視した不法な決定であり、石垣市と与那国町は「全員協議会の決定は無効」と反発している。

 育鵬社版の採択は、法律(教科書の無償措置に関する法律第13条4項)に則った「採択協議会」での協議において決定されたもの。一方、県教委が開催させたのが昨日開かれた教育委員全体協議会だが、これは単なる懇談会であり法的根拠はない。

 つまり、適正な手続きを踏んだ決定が根拠のない懇談によって覆されようとしているわけで、これは「不法なごね得」である。

 沖縄本島のマスコミは終始、育鵬社版反対のキャンペーンを張ってきたが、竹富町の育鵬社版反対も県教委による介入も、そうした論調を背景としたものであり、こんな不法を許せば、法律に基づく教育委員会による教科書採択の根幹を否定することとなる。

 むろん、石垣市と与那国町が合意しなければ、沖縄県教委の介入も竹富町の反対も「無効」となる。(日本政策研究センター・メールネットワーク 9月9日付)


 石垣市と竹富町に対して、以下の趣旨の応援メール、応援FAXをお願いします。

 「適法な手続きによる育鵬社版公民教科書の採択を支持します」

 「不法なごね得に負けるな」

石垣市教育委員会 教育長・玉津博克
TEL:0980−82−2604  FAX:0980−82−0294
E-MAIL:kyouiku@city.ishigaki.okinawa.jp

与那国町教育委員会 教育長・崎原用能
TEL:0980−87−2002 FAX:0980−87−2074
kyouiku@town.yonaguni.okinawa.jp


2011年9月1日(木曜日)

育鵬社版教科書 歴史・公民ともに4万5千部を超える

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育鵬社版教科書

歴史・公民ともに4万5千部を超える

教科書改善運動が大きな成果

 中学校教科書の採択が8月末で締め切られ、各県で最終的な採択結果が公表されています。今回の採択では育鵬社版の歴史・公民教科書が、採択地区の数、採択部数をともに大きく伸ばし、保守系教科書が中学校教科書の一角を占めることとなりました。

 育鵬社版の採択部数は、私立学校を含めると最終的には歴史・公民ともに4万5千部を超え、前回(6年前)が歴史4千8百、公民2千3百だったことを考えれば、大躍進と言えます。

 育鵬社版教科書の採択地区は次の通りです(9月1日現在判明分)。

 栃木県大田原市(歴史・公民)、大阪府東大阪市(公民)、神奈川県藤沢市(歴史・公民)、横浜市(歴史・公民)、東京都大田区(歴史・公民)、東京都武蔵村山市(歴史・公民)、沖縄県石垣市・与那国町(公民)、愛媛県今治市(歴史・公民)、四国中央市(歴史・公民)、広島県呉市(歴史・公民)、山口県岩国市(歴史)、島根県益田市・津和野町(歴史・公民)。

 都立県立の中高一貫校では、東京都立、埼玉県立、愛媛県立、香川県立(以上は歴史・公民)、神奈川県立(平塚校・歴史)。

 日教組などが執拗な反対運動を展開するなか、こうして育鵬社版教科書が大きく前進できたのは各地の教科書改善運動の成果です。今回も、勇気をもって採択した教育委員会への激励などにご協力いただきました方々に篤く御礼申し上げます。(日本政策研究センター・メールネットワーク 9月1日付)




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『明日への選択』9月号 表紙と目次

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『明日への選択』9月号 表紙と目次

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『明日への選択』9月号目次

―interview―

☆中国は「社会主義の衣を着た封建王朝」だ―辛亥革命百年の中国を問う―
 北村稔(立命館大学教授)
 中国共産党はマルクス主義をベースにしていますから、労働者階級や農民階級などが歴史的役割を果たし、共産党の指導の下に今の社会主義中国ができたのだと説明します。しかし、中国革命は果たして社会主義革命だったのかというと、決してそうではないし、現代の中国にしても、封建王朝と本質的な点では変わっていません。

☆米国の東アジア外交を展望する
 島田洋一(福井県立大学教授)

☆「戦史検定」をご存じですか?
 笹幸恵(ジャーナリスト)
 ・慰霊碑の維持・保全と日本という国と向き合うために

 

―opinion―

☆「史上最低の首相」が残した「負の遺産」
 ・尖閣での後退、「脱原発」――いずれも将来に禍根を残す「菅の遺産」である。

☆「防災」は先人の知見に学べ―『災害史に学ぶ』を読む―
 ・30年以内に東海地震が発生する確率は87%、東南海地震や首都直下地震の発生確率は約70%。東日本大震災は多くの教訓を残したが、国民が頭に叩き込んでおくべきは「防災意識が生死を分ける」という教訓。大地震や大津波から自分と家族を守るため、今こそ先人の知見に学べ。

☆井上毅の思索過程を追う―教育勅語・誕生の背景に何があったか―
 ・一口に教育勅語といっても、天皇が国民の思想・信条に関わる問題につき、自らの御言葉をもって一定の方向を示されるということは、実は難しい問題を内包していた。当時、政府内でその難しさを認識していた者はほとんど皆無だったが、教育勅語の起草者・井上毅は唯一人、かかる問題性を意識していた。彼は教育勅語を起草するにあたって、いったい何を問題と捉え、何を重大事と考えたのか。

☆民主党はすでに終わっている

☆日本人と中国人

 

―column―

☆一刀論断
 「全面制裁」発動へ政府は真剣に対応せよ
 平田隆太郎(救う会全国協議会・事務局長)

☆魚がみた日本近代(第9回)
 ロシアを負かした漁業成金
 冨岡一成

☆探訪日本の城(第8回)
 小諸城 島崎藤村ロマン漂う信濃の名城
 濱口和久

☆深層リポート・在日中国人は今……(第16回)
 中国高速鉄道事故 中間層にも拡大する共産党への不満
 余凡

☆知っておいてためになる話
・消防団とは
・震災後、消防団へ若者の入団続々
・殉職消防団員に手厚く報いよ

☆世相クローズアップ
 芸能人「反原発」事情

☆百題百話
 ・「日本の首相が毎月でも靖国を参拝することをまじめに提案したい」
 ・「日本が天皇という君主を持っていることは、日本国民を結束させ、徳のお手本という感覚を国民に与えている」
 ・「じえいたいさんががんばってくれているので、わたしもがんばります」

☆地方議会政策情報
 ・自治体の「婚活支援」は地方の「生き残り戦略」だ
 ・「非核宣言」の落とし穴
 ・原発撤退意見書の「背景」

 

―history―

岡田幹彦☆歴史の指標 『秘伝ノストラダムスコード』を読む




年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

お申し込みは、日本政策研究センター(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。

 


民主党はすでに終わっている

民主党はすでに終わっている

 本稿執筆の現段階では、まだ民主党の代表選は行われていない。従って、誰が代表になるかさえ今はわからないのだが、ただ、はっきりといえることはある。一難去ってまた一難とでもいうべきか、またもや小沢一郎元代表の復活が日程に上ってきたということだ。どこかの週刊誌が書いていたが、今回の代表選はまさにその「小沢の力」再確認のための儀式というのが実際のところだという。

 これまで小沢氏とは一線を画していたはずの前原誠司前外相も小沢詣でを行い、またその前原氏を支援すべく、「反小沢」を売り物にしていた仙谷由人官房副長官までもが小沢氏を訪れたと聞けば、一体これまで彼らが演じていたあの対立劇は何だったのだといいたくなる。「挙党一致」というのがキーワードらしいが、ならば最初からなぜそうしなかったのか。ご都合主義もいい加減にしてほしいと声を大にしていいたい。

 しかし、更に呆れてならないのが、この代表選ではまともな政策らしきものが、どの候補者からも聞こえてこないことだ。もうマニフェストがずたずたになってしまったのだから、もはや政策などどうでもよい、ということなのか。この日本をどうするといった抱負など日頃聞いたこともない候補者たちが急遽出てきて、ただ数を集めて代表になりたいというのでは、彼らがこれまで自民党を批判してきた「政権たらい回し」の言葉がそのまま当て嵌ろう。誰が代表になろうと、そうした人物がそのまま首相になるのであるから、日本政治の迷走はこれからもしばらく続くと覚悟する他ない。

 こう書きつつ、要するに民主党は政党として既に終わっているにもかかわらず、まだ政党であるかのごとく振る舞っているところに最大の問題がある、ということを改めて思う他なかった。民主党に綱領がないのは周知のところだが、その代わりとなってきたのがマニフェストであった。しかし、そのマニフェストは今や完全に破綻し、民主党には全議員を束ねる「共通のもの」が一切ない。とすれば、それはもはや政党ではなく、烏合の集団というべきであろう。にもかかわらず、彼らにはその自覚そのものがないのだ。

 かつては「反自民」という紐帯があったが、今や「大連立」などという言葉も出るに及び、それすら怪しくなっているのが現実だといえる。とすれば、民主党とは何をめざす政党なのか。「官僚主導」を「政治家主導」に改めるのが民主党のめざすものだ、と彼らはマニフェストなどでは主張した。しかし、それがいかに惨憺たる結果を招いたかは、今回の震災への対応を見るまでもなく、もはや誰の目にも明らかであろう。

 とすれば、この党首選は、なぜそういうことになってしまったかを問う、総括の選挙でなければならなかったのだ。しかし、どの候補者にもそうした問題意識は全く見られない。これまでの迷走はどこ吹く風と、ただ「自分にやらせて下さい」一点張りの、無責任選挙そのものというべきなのだ。

 なぜここまで能天気になれるのか。それは彼らの心に「国家」というものに対する感覚がないからだろう。これまでの民主党政治がどれだけ日本の国益を損ない、国力を損なったか。あるいは、どれだけ国家再生のために残された時間を浪費したか。そんな痛切な感覚は多分こうした政治家には考えたことすらないテーマなのだ。

 しかし、今や日本は未曾有の危機の中にある。大震災という国難は何とか凌いだが、これからはもっと深刻な国難が内外からやってくるはずだ。それを考えると、この代表選の危機感のなさは一体何なのだといいたくなる。

 こんな政権は一日も早く終わりにしてほしい。まだ見ぬ政権ながら、そう断ずる他ない。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成23年9月号〉


2011年8月24日(水曜日)

水産業復興のポイントは「資源管理」にある

水産業復興のポイントは「資源管理」にある

 東日本大震災では東北沿岸の水産業が壊滅したことから、これまで国民の関心の外にあった水産業が多少なりとも注目を浴びている。

 だが、もともと関心が低いゆえか、マスコミの取り上げ方は偏っているというか、単純な図式に終始している。

 例えば、政府の復興構想会議での水産業をめぐる議論では、村井嘉浩宮城県知事が提起した水産特区の創設や漁業権の開放が注目を浴びた。これらは壊滅した東北水産業を立て直す上で必要な措置の一つであるが、震災以前以後を問わず、衰退著しい日本漁業を根本から立て直すためには、適切な「資源管理」がもっと重要である。しかし、マスコミは後者の「資源管理」にはほとんど触れず、「漁協vs村井知事」「漁業者vs企業」という対立図式だけを煽るがごとくクローズアップする。これでは国民には、肝腎要の問題が頭に入ってこないであろう。

 そもそも「資源管理」という言葉自体、一般に聞き慣れない言葉ではあるが、世界の漁業主要国では、科学に基づく「資源管理」を適切に行うことによって、「斜陽産業」であった水産業を「成長産業」へと転換させてきた。それゆえ専門家の中には「資源管理をきちんとすれば、世界第六位の海の広さを誇る日本は、将来的には漁業で再び経済大国になれる可能性がある」(生田與克氏)とする見方もある。

 そこで今回は、あまり知られていない「資源管理」について紹介したい。

 

◆乱獲が衰退の原因

 まず話の前提として、日本漁業を取り巻く現状を把握しておこう。

 日本の海面漁業の漁獲量は、ピーク時(昭和五十九年)には一一五〇万トンだったが、現在(平成二十一年)は四一五万トンと、三分の一程度にまで減っている。

 生産額もピーク時(昭和五十七年)は二兆九千七百二十二億円だったのが、現在(平成十九年)は一兆六千五百三十九億円と半分に。

 漁業者数は戦後直後(昭和二十四年)は百九万人だったが、現在は二十万人と五分の一に。しかも、その約五〇%が六十歳以上。さらに七十歳以上も二〇%以上と、高齢化が深刻になっている。平均年収は三百万円以下である。

 こうしたことから、若者も入りたがらず、例えば震災で漁業が壊滅した地域の最近の新規参入者数(平成二十年)は、青森県七十人、岩手県六十六人、宮城県六十六人、福島県十三人、茨城県十三人と惨憺たる有様である。

 この漁業衰退の原因について、水産問題の第一人者、小松正之氏は、〕雎諭糞のとりすぎ)による水産資源の悪化 ⊃綮佐慙∨ゝおよびその運用の不備、の二点が最大の理由だと指摘している。

 現実に、日本近海においては四十以上の魚の繁殖グループが減少しており、われわれのなじみの深い魚を例に取ると、マイワシは好調時には四五〇万トンとれたが、今では五万トンしか獲れない。マサバは一八〇万トン獲れたが、今では二五万トンしか獲れない。タラコの親のスケトウダラ(太平洋系群)は二〇万トンとれたが、今では二万トンも獲れなくなっている。

 

◆乱獲スパイラルで疲弊する日本漁業

 では、乱獲が進むと、漁業にどのような影響が出てくるのか。

 例えば、底びき網漁業は乱獲の結果、収益が悪化の一途を辿っている。主要な漁獲対象ののキチジ(キンキ)はピーク時には漁獲量が一万五千トンあったが、今では一五〇〇トンと十分の一に。しかも、漁獲される九〇%は「きんぎょ」と呼ばれる小型のキチジで、価格はキロ当たり百円以下。漁獲金額の一%にしかならない。これでは経営上もメリットがないと同時に、親魚になる前に獲ってしまうため資源をますます悪化させる。数年ガマンして中型・大型になれば数千円の値がつくものの、漁業者は生活のためと言って小さいうちに何回も網を入れてしまい、貴重な商品を自ら台無しにしている。

 「乱獲→資源減少→収益悪化→漁獲圧上昇→乱獲」が延々と続くこの悪循環を漁業管理の専門家、勝川俊雄氏は「乱獲スパイラル」と呼ぶが、まさにその通りであろう。

 漁業は「魚をとる」ことによって成り立っている。依って立つ基盤たる魚そのものが極端に減ったり、いなくなったりすれば、漁業という産業、さらには加工や冷蔵なども含めた水産業が成り立たなくなるのは当然である。だからこそ、資源状態を適切にコントロールする「資源管理」が必要となってくるのである。

 

◆オリンピック方式から個別割当方式へ転換を

 ところが、わが国ではこの「資源管理」が杜撰なために、乱獲が進み、資源状態が悪化している。

 一応は平成十年に制定された「資源管理法」により、総漁獲可能量(TAC)を設定して、とりすぎに歯止めをかけようということになっているが、機能していない。小松正之氏によると、諸外国では「生物学的漁獲許容量」(ABC)という科学的データを踏まえTACを設定しているが、わが国では「社会・経済的状況を考慮する」という理由、簡単にいえば、「もっと魚を獲りたいという漁業者の要望」を優先してTACを設定しているからだという。

 またTAC決定後の漁獲枠の設定方式にも、大いに問題がある。

 漁獲枠の設定方式には、「オリンピック方式」と「個別割当方式」がある。オリンピック方式は、漁業者が一斉に漁を始め、TACに達したところでゴールとなる。早い者勝ちで魚を奪い合うことから、こう通称される。一方、個別割当方式には、漁船または漁業者ごとにあらかじめ枠を割り当てる「IQ方式」、この割当分を他の漁業者に販売・貸与・譲渡が可能な「ITQ方式」がある。

 わが国はオリンピック方式を採用している。だが、この方式では、漁業者は魚の大小にかかわらず、他の漁業者よりもより早く沢山獲ろうとする。そのため燃油費がかさみ、エンジンの強化など設備投資も過剰になり、どんなに頑張っても利益が出ない。

 一方、IQ・ITQ方式を採用するノルウェー、アイスランド、ニュージーランド、米国など世界の漁業主要国では、漁獲量があらかじめ保証されるため、焦って魚を獲りに行く必要はなく、値がつく大きな魚をゆとりをもって獲れるようになる。値がつかない稚魚は獲らなくなるので、資源は回復することになる。むろん燃油費も設備投資も過剰にならない。市場動向を見ながら値がつくタイミングで漁をするため、利益が出て経営が成り立つようになる。

 ノルウェーは、かつてはわが国と同様にオリンピック方式の下で乱獲が進み、漁業が衰退した。だが、七〇年代後半から厳しい資源管理を行い、ITQ方式へと転換したことで、資源悪化に歯止めが掛けられ、やがて資源が回復。漁業は成長産業へと転換した。

 今では、ノルウェーの漁業者の年収は、平均で九百万円程度。平均年齢は三十九歳未満が四割、五十九歳未満が四割、六十歳以上は一割強にすぎない。給与が高く、将来性もあることから、若者に人気の産業になっているという。

 このように、同じ「資源管理」という言葉を使っていても、わが国と諸外国とでは内実は全く異なる。あえて言えば、わが国の場合は「資源管理」とは名ばかりで、むしろ「資源管理」の名の下に乱獲が進むという全く理不尽な実態がある。このような悪弊を改め、「個別割当方式」を導入し、漁業の土台である資源の回復を図る必要がある。

 

◆それでもやる気のない政府

 そこで最後に、復興構想会議の第一次提言である。

 実は提言の中には水産業の復興に関して、「適切な資源管理の推進」「科学的知見も活用しながら漁場や資源の回復を図るとともに、これを契機により積極的に資源管理を推進すべきである」の文言が入っている。だが、ここで言う「資源管理の推進」が、オリンピック方式から個別割当方式への転換を意味するのかどうかは不明である。少なくとも、第一次提言を踏まえて策定された「水産復興マスタープラン」を読む限り、政府当局に個別割当方式に転換する気はなさそうだ。

 日本近海の魚が枯渇すれば、震災で壊滅した水産インフラをいかに復旧させたところで、東北の水産業に未来はない。食料の安定供給や地域社会・地域経済の存立という点でも、これは大きなダメージである。

 今こそ「資源管理」の在り方が正面から問われなければならない。

(『明日への選択』編集長 新井大智)

〈『明日への選択』平成23年8月号〉


2011年8月17日(水曜日)

国境の離島に伸びる外資の手

国境の離島に伸びる外資の手

国境の離島が外国に狙われている代表的な例として、対馬がよく引き合いに出されるが、危ないのは対馬だけではない。すでに「対中最前線」の南西諸島にも手が着けられている?

 林野庁は去る五月十一日、外国資本による森林買収の全国調査結果を発表した。これは昨年十二月に発表したものの続編で、国土交通省と連携し、都道府県を通じての調査である。

 それによると、平成十八年〜二十二年、北海道で三十六件、米沢市、箱根町、軽井沢町、神戸市で各々一件ずつ、計四十件、六百二十ヘクタールが確認された。確かに、国土の六七%を占める森林面積約二千五百万ヘクタール比べればごくわずかだが、この数字は必ずしも実態を示すものとは言えない。

 わが国では土地の売買は、農地法による規制がある農地以外は原則自由であり、国籍による規制もない。そのため、土地の取得主体が外資か否かの確認は事実上きわめて困難だからである。

 事実、東京財団が今年一月にまとめた政策提言「グローバル化時代にふさわしい土地制度の改革を―日本の水源林の危機掘廖憤焚次提言と略)によると、外資などによる日本の土地・森林の取得は国境の離島にも伸びつつある。長崎県の対馬で、韓国資本によって自衛隊基地の隣接地までが買収されていることは広く知られるようになったが、こうした問題は対馬だけの話ではないのである。

 そうした実状を提言に基づき紹介したい(引用箇所の算用数字は漢字に修正)。

 

◆五島列島を狙う上海資本

 まずは、大小百四十余りの島々が連なる五島列島(長崎県)の玄関口とされる五島市の福江島をめぐる動きから取り上げよう。長崎の海上約百キロメートルにあり、長崎空港から三十分で到着するのが東シナ海に浮かぶ福江島だ。

 福江島は上海から日本への最短地点にある。森林資源などに興味をもった上海資本が二〇〇八年以降、同島に何度か訪れた実態を提言はこう記す。

 「二〇一〇年に入ってからも中国本土から島の山林や港、水産業、観光資源の視察に訪れ、すり身等の製品加工のほか、富裕層向けの別荘地開発、介護教育の研修地として島を活用することに関心を寄せた。

 また外来種(ニュージーランドマツ)の植林を提案するなど、五島市長らとの面会を済ませ、二五〇〇ヘクタールに及ぶ財産区の森林伐採権について、地権者との交渉も行った。単なる木材買収にとどまらず、林業経営への投資を地権者らに提示した点が新しい。一回限りの立木伐採ではなく、数十年を経た次の伐採も視野に入れている」

 どうやら上海資本の関心は、森林資源だけではなく、島自体にあると言えそうだ。当然ながら提言も、「別荘地や介護施設開発などには事業用地の不動産取得もセットになる」と注意を喚起している。

 ちなみに、上海資本が島の地権者らに提示した買収条件は、五十年生ヒノキが十五万円(一ヘクタール当たり)。「驚くほど安価な提示にもかかわらず、島の地権者たちは、『とうてい売れない資産を買ってもらい、当座の収入にしたい』という誘惑と、一方で『平穏な暮らしが脅かされるのではないか』という不安のはざまで揺れた」――提言はこう述ている。

 それにしても、不便な島嶼部に上海資本が興味を持つのはなぜか。提言は、仲介した日本人のこんな発言を紹介している。

 「富裕層は子孫に財を残すため、投資先を国外に求めている。本国には土地利用権しかなく、投資先が限られているから。その点、日本の永久所有権は魅力。土地さえあれば、富は拡散しなくて済み、世代をつなげていける。分散投資先として日本は最も近く、安全な国。しかも不動産を取得するのに外国人制限が何もない。島への投資もその一環です」

 とはいえ、共産主義の中国では、民間が購入した日本の土地をいつ国家が召し上げないとも限らない。提言は触れてはいないが、これは見落とせない重大問題だと言える。

 だが、上海資本が狙っているのは福江島だけではない。提言はこう記している。

 「福江島に置かれた上海資本の日本法人事務所は、島外の森林伐採権の獲得も目指しており、福江島の北東にある中通島では複数の地権者との間で複数の立木売買契約を成立させた。全八ヘクタールの山林のうちの一部はすでに伐採完了している。丸太の一部は九州本土で燻蒸し大陸へサンプルとして運搬された」

 中通島は五島列島では福江島に次ぐ二番目に大きな島だ。狙われているのは、五島列島全体なのかもしれない。

 

◆南西諸島にも手が着けられている

 さらに深刻な問題は、南西諸島に属する奄美大島をめぐる動きである。提言はこんな動きを伝えている。

 「鹿児島に本社がある海運会社グループは二〇〇八年、東シナ海に開けた奄美大島瀬戸内町にチップ工場を建設しようとし、森林伐採とチップ生産で地元雇用を増やす計画を表明した。だが、地元の反対を受けて断念し、次に計画したのが、隣の島の加計呂麻島。一万ヘクタールの山を伐採し、『働く場所を作って町の財政にも寄与したい。島の森がもつ自然再生力を活かしたい』という提案だったが、ここでも反対運動が盛り上がった。
 その後、会社側は加計呂麻島から一時撤退し、すぐさま第三番目の候補地を表明した。それが再び奄美大島に戻って見つけた奄美市(住用地区)の土地で、マングローブ原生林の河口に当たる場所にチップ工場を建設し、加計呂麻島と奄美大島の森林全般を伐採対象とする計画を示した。工場予定地として民地は買い上げられ、山林買収も進められており、すでに一億六千万円の投資を行ったと同社は説明する」

 この「海運会社」がいかに奄美に執着しているかが分かる。その「意図」について提言は、「林業的にいうと、木材はチップのように切り刻むと価値は下がる。……本土の木材産業でさえ四苦八苦している現在、敢えて離島で新規投資までしてチップ生産を開始するというのは、かなり大胆な投資」と疑念を隠さない。

 ちなみに、この海運会社は外資ではないが、「大連や上海、台北など国内のみならず国際航路を行き来する国際的企業」とされる。とすれば、外資が背後で糸を引いている可能性は十分あり得るし、むろん、外資に土地が転売される可能性も否定できない。

 周知のように、尖閣諸島も含む南西諸島はわが国の安全保障上きわめて重要な地域である。東シナ海の軍事バランスが中国優位に傾く今日、南西諸島の防衛強化はわが国防衛の緊急課題であり、現に自衛隊の増強も構想されている。仮にその一角が中国資本の手に落ちることになれば、わが国の安全にとってきわめて由々しき事態を招く恐れがある。

 とすれば、これがいかに物騒な動きかが分かるだろう。だが、問題はそれに止まらない。提言は「こうした国境離島の売買が、実は各地ではじまっている」として、次のような動きも伝えている。

 「対馬では三年前、五五〇〇坪の土地が韓国資本の手に渡ったと話題になったが、一年ほど前からは中国資本も参入したという。上海企業が対馬方面の山林買収などに興味を示しており、競売などでの価格競争は仲介人を交え、多国籍化しているとされる」「隠岐島などでも具体的な動きが表出している。島外から土地の買い付けに来たり、リゾート用地以外の名目で山林を探す動きもはじまっている」と。

 

◆切り売りされる無人島

 一方、こうした国境の離島の動きとともに無視できないのは、わが国の無人島が財政再建の「切り札」として売買されていることだ。昨年二月、瀬戸内海の無人島が売りに出されたことを提言はこう記している。

 「広島県呉市沖の三ツ子島(約七六〇〇平方メートル)の売り主は国。旧日本海軍病院施設の遺構もある島で、もちろん、入札に国籍は問わない。未利用地は売却していくという国の方針に沿って行われたものだったが、無人島の国による競売は史上初めてであった。……
 八法人と十個人の計十八組が応札し、一億一万円を入れた地元の法人が落札した。隣の島で操業する港湾荷役会社で、輸入した工業塩の積み替えと保管を行っている」

 要は、経済的に価値が低く、不要なものは売っていくという発想で国土の「切り売り」がなされているわけだが、提言はこう釘を差している。「国も自治体も、短期のソロバン勘定だけになっている。そこに『当面公有地として残しておく』という発想はない」と。

 なお、尖閣事件直後の昨年十月、先の福江島に隣接する無人島の包丁島(民有地)が丸ごと売りに出されたという。何とも寒心に堪えない。

 以上のような事実から改めて浮き彫りになるのは、領土や資源をめぐる熾烈な国際争奪戦のなかに、いわば丸裸で臨んでいるわが国の極楽トンボのような姿である。

 国土・資源の保全や安全保障の観点から、土地の売買・利用を規制するための法律を早急に整備するとともに、林業の再生など、地域社会活性化のための対策が求められている。

〈初出・『明日への選択』平成23年7月号〉


2011年8月10日(水曜日)

千年の歴史を貫くもの

千年の歴史を貫くもの

 大震災からまもなく五カ月となるが、この間、「千年に一度」という言葉を何度聞いたことか。それは、きわめて希な大震災という意味でも使われているが、千年前にも同様の大災害が東北を襲ったという意味でもある。

 よく知られているように、それは平安時代初期、貞観十一年に今の宮城、岩手で起きた大地震と大津波である。この年は西暦で言えば八六九年だから、千年というより正確には千百四十年ほど前ということになる。

 その様子は『三代実録』という正式な歴史書に記録されている。貞観十一年五月、陸奥の国で大地震が発生し、「建物の下敷きになって圧死したり、地割れに埋もれてしまった人もいた。数多くの倉庫や楼門や壁が崩れ落ち倒れた」。その後「海から轟音が聞こえ、大津波がやってきて、怒涛が渦巻き、たちまち城下に達した。原野も道も見渡す限り水没した。船に乗る間もなく、山に登ることもできず溺れて亡くなった人は約千人。財産や農作物はほとんど失われてしまった」というのである(カギ括弧内は大意)。

 貞観の津波でも今回と同様に、海沿いの町が壊滅的な被害を受けた。ここに登場する「城下」とは当時国府が置かれていた多賀城、今日の宮城県多賀城市であり、地域も今回の震災と重なる。今回の大震災は千年前の再現でもあったと言える。

 いまマスコミで紹介されるのはここまでなのだが、『三代実録』はその後、当時の朝廷が地震使を陸奥の国に派遣し、清和天皇が詔を発せられたことを記している。そこには大震災を経た今日だからこそ注目すべき点がある。

 清和天皇は詔のなかで「百姓何の辜ありてか、この禍毒に罹れる。憮然として愧ぢ懼る。責深く予に在り」、つまり被災した者には何の罪もない、地震・津波の責めはご自分にあると述べられておられるのだが、そこから連想させられるものがある。

 それは、貞観地震から六百七十年後、戦国時代に疫病が流行し多くの人々が死に瀕した際、後奈良天皇が「疫病の妙薬」となるよう願って写経された、その奥書である。そこに「朕、民の父母と為りて徳覆うこと能ず。甚だ自ら痛む」とお書きになられていたからである。

 さらに思いを馳せれば、この後奈良天皇の奥書を「伝統的に国民と苦楽をともにするという精神的な立場」が表現された、いわば模範として挙げられているのが今上陛下であり(昭和六十一年のお言葉)、それはさらに今年三月の今上陛下のビデオ映像による「お言葉」につながる。

 貞観の詔では、被災者に対して「朕が親しく観るがごとくせしめよ」と地震使にお命じらになられてもいる。近代以前は今日のように天皇陛下が被災地を訪問され親しく被災者を見舞われることはなかったが、この一節からは今上陛下が避難所で膝をつかれて被災者にお言葉を掛けられた場面が連想させられる。

 千百年前の貞観の震災においても今日の東日本大震災においても、時代の違いはあれ、「国民と苦楽をともにする」ご精神は変わってはいないことを痛感する。日本の歴史は地震と津波という悲劇が繰り返されてきたが、その悲劇のなかにあっても、日本の歴史には天皇というご存在が、地震で倒れない五重塔の心柱のように貫いていることを教えてくれる。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成23年8月号〉


2011年8月4日(木曜日)

横浜市が育鵬社版教科書を採択

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横浜市が育鵬社版教科書を採択

 本日(8月4日)、横浜市教育委員会が平成24年度から4年間使用される中学校教科書について審議し、社会科の歴史・公民ともに育鵬社版を採択することを決定しました。

 午前10時から始まった委員会審議には、傍聴のために約千人(反対派が動員をかけたと言われる)が詰めかけたが、午後2時前、記名投票の結果、歴史・公民ともに4対2で育鵬社版の採択が決定されました。

 横浜市は今回から全市が1採択区となり、全国最大の採択区。育鵬社の歴史・公民の教科書は横浜市分だけでも全国の2%程度を占めることとなります。

 育鵬社版教科書は、既に大田原市(栃木県)、藤沢市(神奈川件)、東大阪市(大阪府。公民のみ)、東京都立中高一貫校(全15校)、神奈川県立中高一貫校(平塚校・歴史のみ)でも採択されており、これまでの教科書改善運動が成果として現れつつあると言えます。

 全国でも強力な日教組が不採択運動を展開するなか、高い見識をもって育鵬社版教科書を採択した横浜市教育委員会に、応援メール、応援FAXをお願い申し上げます。

 ky-web@city.yokohama.jp       FAX  045−663−5547

 (日本政策研究センター メール・ネットワーク8月4日付)


2011年8月2日(火曜日)

明日への選択 読者の声

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☆7月号、大石久和先生のインタビューはとても勉強になりました。他の国に比べて自然災害が多いこの日本で、多くの先人達が子孫のために、絶えず国土に手を加えて来たことによって、この日本の国土がこうしてあること。そのことに関心を払っていなかったことに恥ずかしさを感じました。(神奈川・S)

☆『明日への選択』7月号の「これで東北復興ができるのか?」を読んで、奥尻や神戸では、インフラを復旧したものの、人口流出、国際競争力の低下を招き、本当の意味での復興がなされていないことに驚きを隠せませんでした。東北の復興を考える上で、インフラ復旧するだけではそれで終わってしまう。反転攻勢の戦略を構築しなければ意味がない。政府が「被災地の土地買い上げ」などの思い切った対策が立てられない状況は、東北どころか政治が復興策を必要としているように思えます。 そういう意味では本腰を入れた復興対策を政府・官僚任せでいいのか、国民も智慧を出し、全体で実現させていく気概が求められているのではないでしょうか。(愛知・S)

☆6月号の平松茂雄先生への特別インタビュー「現代版中華世界をめざす戦略区構想」は、多くの日本の人々への凄い警鐘でした。早速その御著書『中国はいかに国境を書き換えてきたか』を入手して、その「はじめに」を勉強しただけでも、中国の理解がたいへん本質的に深まりました。すばらしいことです。(静岡・H)

☆6月号の「東北被災地視察報告」を拝読いたしました。東日本大震災の大津波によって、多くの方々が広範囲に渡る甚大な被害に遭われているという事実に接し、改めて胸の痛む思いがいたします。壊滅的な被害を受けたのは日本の台所を支えている農業、水産業などの第一次産業で成り立っている地域です。ただでさえ、生産者人口の減少化や高齢化が進み、第一次産業の衰退が厳しい状況のさらにその上に、この大震災が起きたと云うことは余り認識されていないように思われます。仙台の農業者の、これまでの政策を清算して思い切った大胆な復興構想を打ち出してほしい、という趣旨のコメントを読み、被災された方々の願いは、旧来の地場産業がダラダラと続くような単なる復旧ではないのだということを知り、目からウロコでした。そういう意味で、「東北視察で考えた復興のポイント」の記事の内容はこれからの東北のみならず日本の進むべき方向性を示しているように思います。放射能汚染で作付不可能となった農地にバイオ発電用の菜種や米を栽培するというのは、災害を逆に新技術の発展のチャンスと捉える逆転の発想です。東北の「自然の恵み」を基盤とした「食糧供給基地」への転換を図るというのもそうです。震災によって生じた様々な困難を克服する手段をただ元に戻す為ではなく、東北地方の躍進のステップとして捉えているところに強い感銘を受けました。このような、困難をチャンスと捉え、本来目指すべき方向を示すアイディアがこれからもっと求められているのではないかと思います。(栃木・K)

☆5月号の特別対談「指揮官が見た東日本大震災」は、阪神・淡路大震災時の自衛隊の災害派遣時の陸海の二人の指揮官が、今回の大震災における後輩隊員たちの活躍を讃えるとともに、菅政権の危機管理のお粗末さを、「指揮官」の視点から手厳しく批判しており、とても興味深く拝読した。自衛隊の活躍については、新聞でも報道されているので、ある程度は知っていたが、現場の隊員たちがいかに過酷な現実と立ちむかっているか、改めて感謝の気持ちがこみ上げてきた。それとは対照的に、菅政権がいかに危機管理の要諦とは全く逆向きの「政治主導」を行っているかも分かり、パフォーマンスと責任逃れの民主党政権の早期退場の必要を痛感した。それと、とくに自民党の国会議員諸兄には、「優先順位を決め、適切に役目を与えるのが、政治の責任」、「首相は最後は自分で腹を切るという覚悟で決断を下すべき」という言葉、そして「非常時には、自衛隊に一定の権限を与えて行動できるようにすべき」という指摘を是非とも深く胸に止めてほしいものである。(富山・T)

☆2月号の野村進さんのインタビュー「グローバリズムを越える老舗の知恵」を読みました。日本が世界で一番老舗が多いのは、日本が他からの侵略がなく内戦も比較的少ないことと、継続を尊いとする価値観が日本にあることを挙げられました。日本ではもの作りの老舗に対して尊敬の念を感じるのは当たり前ですが、韓国や中国では同じ事をやる続けることは出世しないとしてバカにされる風土があることも初めて知りました。如何に日本が他の国とは異なり、逆に世界が日本に求めているものがまだまだたくさんあるということもわかりました。このように自分の国のもつ特性というものにもっと多くの分野において思いを巡らし、再発見、再評価していくことを自分でもしていかなければいけないと思いました。(神奈川・M)


2011年8月1日(月曜日)

一企業に踊らされる日本でいいのか

一企業に踊らされる日本でいいのか

 一企業トップの呼びかけの下に、全国三十五道府県が結集――。先月設立された太陽光や風力などの発電普及をめざす「自然エネルギー協議会」なる団体の話だ。

 一企業トップとは、もちろんソフトバンクの孫正義社長。率直にいって、全国三十五道府県の知事はソフトバンクの系列支店長にでもなってしまったのか、と疑わざるを得ない。この話、どこかおかしいのではなかろうか。

 もちろん、いかなる団体であれ、設立それ自体は自由である。しかし、一企業のトップにこれだけの道府県の知事が群がるというのは、やはり尋常ではない。これでは公の役所が一営利企業の下に雁首を並べて結集している図、と見られても決して不思議ではないからだ。孫社長の得意や思うべしだが、これでは話が逆である。

 むろん、こうした光景はこれが初めてではない。どこかの人気知事が、突然「地域主権」だの「維新」だのといい出すと、われ先にとこの旗の下に押しかけ、われも同じだと叫び出す光景がこの春にもあった。「地域主権」とは果たして何で、「維新」とは一体どんなことをすることなのかを、恐らくまともに考えたこともないお粗末な自治体首長たちが、ためらいもなくこのスローガンを口を揃えて唱和したという話である。

 こう考えると、今回は「脱原発」で、その目玉が「太陽光」の推進ということになるのだろう。ともかく、どこか新しげで、マスコミが囃し立ててくれ、ワイドショーの話題になることなら何にでも飛びつく――というのが彼らのどうしようもない性向であるようだ。週刊誌には「政商・孫正義」だの「強欲経営」だのと、これに批判的なものも目立つとはいえ、今や「脱原発」「太陽光」という大義に誰が文句をいえるのか、といった勢いだといって過言ではない。

 しかし、それは孫社長のような商売人ならともかく、少なくとも公益を担う知事のような立場の人々には「それで良いのか」といいたくなる話である。これから二十年経っても採算が取れるかどうか分からない話に、これから数十兆円ともいわれる血税を投入して行くという話だからだ。

 「ソーラーが一体どれだけの時間と金でできるか分かったものじゃない。東京みたいな大きな経済産業地の経済が十分にまかなえるなら結構。とてもそんなふうにはいかない。頭を冷やして考えてくれ」と石原東京都知事はこの動きにコメントしたというが、さすが石原都知事。情けない話だが、同知事以外、他にまともな知事はいないのかと思う。

 むろん、自然エネルギーの開拓それ自体に筆者は反対しているわけではない。しかし、だから太陽光だと、既定のコースであるかのごとく一方的に決めつけるやり方に違和感を感じるのだ。孫社長と菅首相は二〇二〇年までに、自然エネルギーの割合を二〇%にするという目標で意気投合しているという。しかし、水力を除く今の自然エネルギーの割合はたったの一%。これを水力を増やさずに、それも太陽光をメインに二〇%までもって行くというのはどう考えても至難の業である。できたとしても、それは税金を後先考えずに投入した結果としてでしかない。これでは日本経済はその前におかしくなってしまう。

 ちなみに、孫社長は超党派議員によるエネルギーシフト勉強会なる会合の場で、「菅首相は、あと十年ぐらい続けてほしい」と述べたという。冗談でいったのだと信じたいが、もしこれが本気なら、これだけでも孫社長の良識が疑われる話だといえよう。自社が儲かるならこの日本はどうなっても構わない。この言葉は、まさにそう明言したにも等しいからだ。

 この日本、安心して見ていられないことが多すぎる。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成23年8月号〉


『明日への選択』8月号 表紙と目次

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『明日への選択』8月号 表紙と目次

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年間購読料7,000円/1冊(ばら売り)600円

お申し込みは、日本政策研究センター(電話03-5211-5231/FAX03-5211-5225)まで。

 


2011年7月21日(木曜日)

尖閣事件・中国人船長は「強制起訴」に 那覇検察審査会が二度目の「起訴相当」議決

尖閣事件・中国人船長は「強制起訴」に

那覇検察審査会が二度目の「起訴相当」議決

 本日21日、那覇検察審査会が昨年9月の尖閣事件で不起訴とされていた中国船の船長に対して2度目の「起訴相当」を議決した。これで中国人船長は「強制起訴」されることとなった。

 尖閣事件では、海上保安庁がこの船長を公務執行妨害で逮捕したにもかかわらず、那覇地検が船長を釈放し、今年1月には不起訴とした。これに対して、当センターの代表、所長も加わった5名が那覇検察審査会に不服申し立てを行った。

 この申し立てを受け、審査会は4月18日に1度目の「起訴相当」を決議。これに対しても那覇地検は6月28日に再び不起訴としていたが、今回、検察審査会が2度目の「起訴相当」を決議したというわけである。

 今回の「起訴相当」決議によって中国人船長は「強制起訴」され、裁判所によって指定された弁護士が検察官の職務を行う指定弁護士となって、裁判が開かれることとなる。

 当然のことながら、裁判所は中国に帰国している被告(船長)を召喚することとなる。しかし、あの中国人船長が召喚に応じなければ、裁判は開かれない可能性が高い。

 そこで問題となるのは、菅政権が被告が召喚に応じるよう中国政府に対して要求するかどうかである。それすら出来ないようでは、日本は法治国家でなくなってしまう。

 菅政権に対して、中国人船長の召喚を中国政府に要求するよう声をあげていきたい。これは正当な法手続きに基づく、日本国民の正当な要求である。。(日本政策研究センター メール・ネットワーク7月21日付)


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